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天界からの使いの者

「楽しそうな事をしているのだねえ」


 突然割って入ってきた声。甲高く、それでいてしわがれているような年齢を特定できない声が聞こえた。


「どこから!?」


 ルシルが辺りを見回す。


「ここだよ」


 その声はルシルの真後ろから聞こえる。俺はルシルの手を引いて俺の背後に移動させた。時間の圧縮で相手には一瞬の出来事に思えただろう。


「おや、奇妙な技を使うね」


 そいつは白一色のコートを着て、髪も真っ白な姿の男だった。肌も透けるように白い。なにからなにまで真っ白だった。


「お前、何者だ」

「おやおや、こなたに向かって攻撃的な物言い。後悔しますよ?」


 言い方は丁寧だが棘がある。それに上から目線で物を語る様子はどうも受け入れがたい。


「こなたは天子の使いであるぞ。こなたの言葉は天子の言葉。逆らわぬ方がよいと思うが」

「それはどうも。その天子の使い様とやらがなんの用でこんな辺境の谷に来たっていうのかな?」


 この白い奴の視線はなかなか鋭い。そこそこの奴では目も合わせられないだろう。

 だが俺はここで退くわけにも行かないからな。背負った物があるとそれが俺の背中を押してくれる。

 それはバーガルも同じだろう。奴も視線を逸らそうとはしない。


「こなたの目的は既に果たしたと言ってもいいでしょう。そなたらはこれで決別したと見たが、そうだなバーガル王」

「そう捉えてもらっても構わない。白の使者よ」

重畳ちょうじょう。という事であるからして、思念体のキミ」


 白い奴は勝ち誇ったように俺を見る。


「この場は退いてもらえないだろうかな? こなたは戦いに来たわけではない。だが無理を通そうとするのであれば、一戦交えてもよいのだよ」


 手をヒラヒラとさせながら俺に退去しろと指図する白い奴。


「ゼロ、こんなに好き勝手言わせておいていいの!?」

「そう熱くなるなよルシル。ここで戦闘を始めるのは双方共に得策ではない」

「でも、あんな風に言われてさ、悔しいじゃない!」

「まあまあ」


 ルシルは今にも噛みつきそうな程の勢いだが、それを俺が必死で止める。

 既に諦めたように視線を落とすバーガルと、それらを見て楽しそうにしている白い奴。


「一旦ここは退こう、な、ルシル」

「うう……」


 涙を浮かべそうな程に悔しさをにじませているルシルを抱えながら、俺は部屋の出口へ向かう。


「じゃあそういう訳だから、バーガル、元気でな」

「勇者ゼロ、あなたにご武運を」

「礼は言っておく。ではな!」


 相変わらずニヤニヤしている白い奴を無視して、俺はルシルを連れて部屋を出た。

 バタバタした退出だった。


『こんな感じでよかった?』


 ルシルが思念伝達テレパスを使って俺に話しかける。


『ああ、敵がどういう奴かを見る事ができたし、だいたいの反応も判った。ありがとうなルシル』

『どういたしまして。でもこれで力関係が判るね』

『そうだな。やはり天界の連中が瘴気の谷の魔族たちに圧力をかけてきている。そして瘴気の谷はそれを跳ね返す力を持っていない』

『でも今の私たちには思念体が生み出す力しか出せないから』

『できても冥界に退避してもらうくらいが精一杯だ』


 俺たちは思念伝達テレパスで会話をしている一瞬で瘴気の谷を出て、白い奴から距離を取った。

 それでも念のため、思念伝達テレパスでの会話は続けるのだが。


『バーガルたちが長命である事と、地上界に残ってくれる事をに期待しよう』

『うん、無事でいてくれるといいんだけど……』

『そうだな』


 瘴気の谷を出て荒野を進んでいる時に、見知った女の子が視界に入ってくる。


「ゼロ、あれ」

「レイラか……」


 ルシルが魔王時代、その妹だった魔族の実力者レイラ。

 俺たちは速度を落とし、荒野に立っているレイラに近づいていった。

【後書きコーナー】

 これを投稿しているのが2021年1月1日。2021年も投稿する事ができました。

 あと少しでこの小説も、書き続けて満二年。思えば長い事やってきたものだなあと、正月ながら感慨深い思いがします。

 引き続き、お付き合いいただければ嬉しいです。

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