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千年の埋伏

 バーガルの目は真剣だ。それこそ視線で人を殺す事ができるのなら、この目は何人も殺していそうな力を込めていた。


「バーガル」

「はい陛下」


 あえて俺たちの会話は落ち着いた雰囲気で続けられる。感情的になっては話がこじれるばかりだからな。


「まだ陛下と呼んでくれるか」

「もちろんですとも」

「あえて聴く。魔族は千年、生きながらえる事はできるか」


 俺の問いに、バーガルは戸惑った顔を一瞬だけ見せる。


「長命なる者共は確かに長生ちょうせいでありましょう。しかしながら今まで我らはそのような平穏な時代を経験しておりませぬ。多くの者は病で命を終え、更に多くの者は戦にて果てましょうな」

「そうか。お前の、お前たちの意思は承知した。そこまで長命でない者は俺が預かろうと思うが、どうだ」

「それは……お言葉感謝に堪えません。ですが」

「やはり友人や縁者と離れるは辛い、か」


 小さくうなずくバーガル。それはそうだろう。瘴気の谷をまとめてきた魔族の長だ。暮らせるのであれば共にと思うだろう。


「いや、無理な事を聴いて済まない」

「構いませんよ陛下」


 俺はゆっくり椅子から立ち上がると、バーガルもそれに合わせて立つ。

 居住まいを正して俺の言葉を待つバーガル。


「俺から独立するという事は、解っているな?」

「先刻承知の上です」

「そうか」


 俺はバーガルに向かって右手を開いて差し出す。丁度バーガルの頭の辺りだ。


「ゼロ……」

「心配するなルシル」


 俺の意図を悟ったか、バーガルは目を閉じて頭を下げる。


「反逆罪で殺すの?」

「いや……」


 バーガルはそれでも頭を下げたまま、俺のやろうとしている事を全て受け止めるだろう。


「バーガル」

「はい陛下」

「お前を瘴気の谷の王とする。この地に対する全ての権限をお前に与えよう」


 俺の手から淡い光が浮き上がり、バーガルの額に吸い込まれていく。


「謹んでお受けいたします。つきましては瘴気の谷の王、瘴谷王しょうこくおうと名乗らせていただきます」

「よい。瘴谷王、民の事頼むぞ」

「ははっ」


 瘴谷王となったバーガルは、俺に深々と頭を下げ、ルシルに対しても最敬礼を送った。


「ルシル様、瘴気の谷の魔族は我がこの後も……」

「そっか、うん。でもさ、天界の奴らに味方するんだよね?」

「ええ、それがこの谷の生き残る道と考えましたので」

「天界と魔族、うまくやっていけるかなあ。私だと敵対しそうだけど……」


 ルシルも過去には魔王として世界の一部を魔族の支配下に置いていた事もある。それだけに国を保つという事の難しさは知っているのだが。


「今はまだ好意的に交渉してきています。なあに、たとえ相手が牙を剥いてきたとしてもドワーフが造ったこの谷を攻め落とす事はできませんよ」

「解った。それなら私も応援するよ」

「ありがたき幸せ」


 妙な緊張感が三人の中で生まれる。

 俺がルシルを軽くつつく。


『やっぱりね』


 ルシルは思念伝達テレパスで俺に話しかけてくれた。


『レイラから連絡があった。レイラもバーガルたちと一緒に行くって』

『そうか、協力してくれるか』

『うん。瘴気の谷の魔族たちは天界の奴らと仲良くしたふりをしてくれるってさ』


 ルシルが魔王時代の妹であるレイラと思念伝達テレパスで連絡を取っていてくれた。

 そのレイラの話では、バーガルに接触してきた天界の者たちは主に人間の国を滅ぼそうとしていて、魔族はその攻撃対象にないという事。これはゴブリンなどの亜人種も同様らしい。

 そこでバーガルの発案で、天界への諜報役として俺たちが戻ってきた時に内部から味方をしてくれるという話だった。


 それを信じるも信じないも俺次第という事でもあるが、俺は信じてみようと思った。

 冥界に避難するのも、天界の連中に攻撃されるからであって、共存できる内は生きていられると判断したから。


「バーガル、いやバーガル王」

「はい」

「これからの発展、期待しているよ。長きにわたって済まんな」

「陛下も、どうかご本懐を遂げられますよう」


 今度は握手を求めて右手を差し出す。バーガルはその手を握り、互いの健闘を祈る事にした。

 はた目から見れば、これを最後に手切れとなるように感じられただろう。

 そう、どこからか見ているであろう、第三者からすれば、な。

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