ガレイ壊滅
俺はドラゴンたちと空中戦を繰り広げていた。
ドラゴンは好き勝手攻撃をかけてくる。俺はスキルを使いながらも上や横へと駆け回って逃げた。
そうしないと地上へ被害が及んでしまうからな。
『ルシル、撤退の状況は』
『もう少し。あと三人だけ!』
ルシルは杖と勾玉を使って冥界への門を開いてくれている。
それだけを聞くと死後の世界に送りつけているようにも思えるがな。
「この人間、なかなか当たらないぞ!?」
「いったいどうなっているんだ!」
ドラゴンたちは白い身体をくねらせてもどかしそうに飛び回っている。氷のブレスやカギ爪を使ったりして攻撃をかけ続けるが俺には当たらない。俺は半透明になったり時間を圧縮した状態で移動したりしてドラゴンたちを翻弄していた。
『ゼロ、全員!』
端的にルシルが報告をする。
『よし、次の拠点を目指すぞ!』
『うん!』
俺はドラゴンたちと空を飛びながら相手をし、時間を稼ぎきった。
「さてと、倒せるものなら倒したいが、今の俺じゃあそうもいかないからな」
俺が急に立ち止まって話をするものだから、ドラゴンたちも驚いて空中で止まる。
「人間、いい加減観念したか?」
「ここまで我らをもてあそんでくれた、その報いを受け取るがいい!」
四匹のドラゴンが一斉に氷のブレスを吐き出す。
そのブレスは俺に向かって一直線に伸びてきた。
「そうそう簡単にはやらせないさ。Sランクスキル発動、風炎陣の舞! 吹きつけよ炎の舞っ!」
俺はスキルを発動させ、炎の発生先を俺の身体に向ける。火蜥蜴の革鎧を装備している俺に炎は効かない。
だが、俺の周りに炎の幕ができて渦を作り、そこにドラゴンたちの氷のブレスが浴びせられる。
「血迷ったか人間っ!!」
ドラゴンは勝利を確信したのだろう。笑いながらブレスの圧力が増してくる。
「頃合いか」
俺はブレスに熱を加えて湯気を大量に発生させた。
ドラゴンの氷だからちょっとやそっとの火では溶かす事なんてできないだろうが、俺のスキルなら燃やし尽くすまでには行かないまでも、表面だけ蒸発させるくらいはできる。
俺を中心に水蒸気が大量発生し、それが雲のように空へと広がっていく。
「人間め、無駄な事をする!」
「グガガガガ! 滅べ人間っ!!」
ドラゴンは調子に乗って俺にだけではなく無差別にブレスをまき散らし始めた。
俺は既に地上へ降りてルシルと合流している。
「ドラゴンたち、まだ空からブレス吐いているよ」
「好きにさせるしかない……今はな」
「そうだね。もうシルヴィアさんたちは冥界に行っているから。後で宝玉を使って会話はできるようにするよ」
「お、それは助かる。それにしても、こうも思念体だけでは力が出ないもんだな」
「そりゃあそうよ。魔力が供給できないんだもん。力だって出せないよ……」
俺たちは気配を消しつつ城塞都市ガレイから少しずつ離れていく。
「ギャハハ! 人間がもう跡形もなくなっているぞ!」
「既に氷の塊にすらならなかったわけだな!」
「はぁ~、疲れたわい……」
ドラゴンたちは思い思いに愚痴をこぼす。
「それより町を破壊しよう! 人間どもの作った町を徹底的に!」
「人間どもの悲鳴、絶望に打ちひしがれる声、早く聞きたくなったわい!」
「おう、あの邪魔な人間がいなくなった事だし、天主様の命でもあるからな。とっとと壊しちまうか!」
「それがいい、それがいいぞ!」
ドラゴンたちは自分たちの勝手な解釈を披露する。
俺たちは町の人が一人もいなくなった事を確認しているからな、ルシルの思念伝達を使って念入りに調べている。
「済まないな……」
だが、謝りの言葉が口から出ていた。俺はこの町に暮らす人々の想いが詰まった場所を守れなかった事に、胸が苦しくなったからだ。
「ゼロのせいじゃないから」
「そうだけどさ……」
そんな気持ちを察したのか、ルシルは優しく俺の腕に抱きついてきた。俺はルシルの頭を軽くなでてやる。
後ろでは町の凍る音と物が凍って砕ける音がした。
大きな破壊音が響き渡る中、気付かれないように、存在を薄く、弱く。俺たちは町から離れる。