一時的な後退
上空には俺と白龍が四体。
「俺のスキルも想像力に左右されるからな、まだまだこんなもんじゃない、と言いたい所だが……」
俺の攻撃はある程度のダメージを負わせる事ができたが、大打撃とまでは行かない。もっとイメージの力を強くしなければ。こいつらを倒せるくらいに。
「グゴゴゴ……このような人間に手間取っているようでは、天主様のお役には立てぬぞ」
「まったくだ、こんな小さき者一つに手を焼いているようでは……なっ!」
後から来たドラゴンの一匹が俺に向かってカギ爪を振るう。
「なぬっ!?」
だが俺の意識を変える事でドラゴンの爪は空を切って俺には当たらない。
いや、当たってはいるのだろうが俺の身体を素通りしてしまう。
「なんだこいつの身体!?」
ドラゴンが爪を自分の顔の前に近付けて、俺の身体がすり抜けてしまった事を確認するように見ていた。
「そりゃっ!」
俺はそのドラゴンの手を思いっきり蹴りつける。
「ぶぎゃっ!」
ドラゴンの爪はそいつの鼻先に突き刺さった。
「いでででで!! なにしやがるっ!!」
「ぎゃはは! 人間に遊ばれてちゃあ世話ねえなあ!」
「言ったなこの野郎!!」
ドラゴンたちはぎゃいぎゃい騒いでじゃれ合っている様子だ。
という事は、俺の存在を脅威に感じていないという事でもある。
「こりゃあ空中戦は厳しいかな」
俺は地上にいるルシルと連絡を取った。
『ゼロ、思念伝達を使って話をするね』
『助かるルシル。俺が白龍どもと空中で足止めをする。その間に町の人たちを冥界に送りつけてくれるか?』
『判った。予定通りに』
『ああ頼む』
俺たちは助けられる連中を救う方法がないか考えた。思念体のままで現実世界を戦うのは難しい。それなら肉体を持ったまま冥界に行けば、命は失わずに済む。
少し時間の経過は異なってしまうかもしれないが、とにかく俺たちは大陸の各所を回って人々を救い、冥界を避難場所にしようとしたのだ。
『そして俺たちも未来に戻って身体を取り戻せば』
『その時は反撃、だね』
『ああ。だから今は一人でも多く』
『シルヴィアさんたちにも急いでもらっているから、少しだけ持ちこたえて』
『任せろ』
俺はルシルとの会話を終わらせ、目の前に展開する戦闘に集中する。
「おいおい、そんな事よりまずこの面倒くさい人間をどうにかしちまおうぜ!」
鼻を爪で引っ掻いた白龍がうなりを上げながら俺をにらむ。怪我をされられたんだ、気恥ずかしい思いもしたのだろう。
「まったくだ、とっととこの町も破壊し尽くさないとな!」
片目の白龍も同調する。こいつはセシリアに片目を潰された恨みもあるはずだ。
「判った判った、そうと決まれば遊びは終わりにするぞ」
その言葉を合図に白龍たちが俺を取り囲んで狙いを定めた。
「いい布陣だ」
俺は前後左右囲まれた状態になるが、この程度なら想定の範囲内。ドラゴンたちを見ながら上空にゆっくりと浮かび上がっていく。
「おい、追うぞ!」
「おお!」
ドラゴンたちが俺に釣られて上昇を始める。包囲の輪が縮まっていく。
「SSランクスキル発動、豪炎の爆撃! 爆炎よ、ドラゴンどもを灰燼となせっ!!」
俺の両手から巨大な火の玉が放たれドラゴンたちを遅う。
「なっ!?」
戦闘の白龍に直撃して大爆発を起こし、周りの奴らにも連鎖していく。
空中に巨大な爆発がいくつも起こった。
「だがこれくらいでは潰れないのだろうなあ」
俺の予想通り、ドラゴンたちは身震いをして炎の欠片を振り払うと、大した傷も負わずに俺へと向かってくる。
「よくもやりやがったな!」
「こいつを噛み砕いてやる!」
「いや、俺の爪で引き裂いてやる!」
「俺のブレスで凍らせてやるぞ!」
ドラゴンは口々に俺を罵る、そしてどう殺そうかという願望を振りまきながら近づいてきた。
「どうも、魔力の注入が想像できないというか、実感できないみたいだからな。それが威力に影響しているのかもしれない」
俺は迫ってくるドラゴンたちを見ながら、ああでもないこうでもないと考えてしまう。
ドラゴンたちはもう目の前に来ていた。