互角に渡り合える力
空から大気を震わせる声が響く。
「来た……」
セシリアの声に緊張が混じる。
「外へ!」
俺たちは館から出て上空を見上げた。
そこには太陽を覆い隠すかのような巨大な影が。
「天界の白龍……」
白いドラゴンなのだが黒く見える。太陽をさえぎっているので俺たちが見ているのは影になった部分になるからだ。
「はぁ……はぁ……」
セシリアの息が荒くなる。緊張からくるものだろう。
「セシリア、あの白龍は片目を?」
「ああ。俺が槍を突き刺してやったんだ。だが、その反撃を受けて警備隊の者たちは討たれ、俺も命に関わる程の傷を負ったのだ」
セシリアの剣先が振るえる。それだけ力が入っているという事だ。
俺はセシリアの腕に手を添える。
「大丈夫だ、落ち着け」
「婿殿……」
少しだけ息が整ったセシリア。
「婿殿とルシルちゃんのお陰でどうにか俺も死なずに済んだ。だがそれだけの力をあの空に浮かぶ憎き者が持っているという事だ」
「そうか」
俺はセシリアを後ろに下がらせ、一人で前に出る。
「おい白龍!!」
大声で叫んだ俺は、空に浮いているドラゴンに向かって飛び上がった。
「なっ、婿殿が……飛んだ!」
セシリアが言うように俺は空へと舞い上がる。思念体だからこそできる事だ。
まず、相手をどうこうするよりも自分の飛んでいる姿を想像するだけで済むからな。簡単な部類に入る。
「おお、人間ごときが空を飛びおるか……」
白龍はドラゴンの口を器用に使って人間語を使う。
「ほう、少々大きい程度のトカゲが人語を口にするか。空飛ぶトカゲだと侮っていたが、考えを改めなくてはならないな」
「な、聡明で知的なドラゴンに向かってその口のききよう……。タダでは済まさぬぞ人間!」
白龍は残ったもう一つの目を大きく見開いて怒りをあらわにする。
「トカゲ風情が。知能が足りんから自分の事をそのように過大評価するのだ。ある程度正常な見識を持っていれば、恥ずかしくてそのような事は言えないだろうがな」
「なっ! なにをっ!?」
白龍は思い切り息を吸い込むと喉の奥を膨らませた。
「毛の抜けた猿が高貴なドラゴンを侮辱するかぁ!」
大きく開いたその口から、吹雪のようなドラゴンブレスが吐き出される。
俺が空を飛んだ意図もここにあった。地上でこのブレスを受けれ地上にいる人や町にも被害が及ぶ。空にいればブレスを吐かれても空へと消えていくだけだ。
「ふむ」
俺は特に気にせずにドラゴンブレスを受け止める。巨大な嵐のような風の中、大粒の氷が空間を切り裂くようにかき混ざり、遠ざかっていく。
「なん、だと……」
白龍が不思議に思うのも当然だろうが、俺は何事もなかったかのようにドラゴンブレスの過ぎ去った空間に浮かんでいた。
思念体で半透明の状態にすれば、攻撃を素通しする事など簡単な事だ。
「次はこちらからも行くかな」
俺は右手を突き出して腕に力が集まってくる様子を想像した。
「Sランクスキル発動、風炎陣の舞! 包み込め炎の幕よっ!」
俺の右手から放たれた炎の帯が白龍の身体にまとわりつき、全身を舐め尽くす。
「ゴガァァァ!」
吠える白龍に向かって俺は開いた手を力強く握る。
手の動きに合わせて炎が集結し、白龍を中心に巨大な爆発が起きた。
「グ……グゴァ!!」
全身から煙を立ち上らせながら白龍は身体を震わせる。
「そうやって吠えているくらいが似合いだぞ、トカゲらしくな」
「グ、グクク……。抜かしよるわ人間が!」
白龍が巨大な翼を羽ばたかせて自分軸として横転を繰り替えした。ぐるぐると回るたびに爆炎が消え去り煙も吹き飛ばされていく。
「ほう、やるな。自ら回転する事で俺の炎を消すとはな」
互いに致命傷には至らない攻撃。多少俺の方が有利かもしれないが、どれだけこの攻撃を繰り返せば奴を倒せるか。
そう考えていた所で別の所から風を感じた。
「なにを遊んでおるのだ。我らに刃向かった奴はまだ片付けておらぬのか」
風の吹いた方、俺の右側から聞こえた声に視線を送る。
そこには三匹の白龍が飛んでいた。