天界からの襲撃者
セシリアのいる館へと急ぐ。おかみさんが言うには、セシリアが外の戦で大怪我を負ったらしい。
走りながらもルシルが聞いてくる。
「私の蘇生治癒ならどうにかなるよね!?」
「ああ、ルシルのスキルはSSSランクだからな、俺の使えるSランクの重篤治癒とは効果が違う。期待しているぞ!」
「うん!」
俺たちが意識を集中させて走れば高速で移動できるし、外から見たら一瞬に移動したと思われるくらいの速度だ。
「ここか、モンデール伯爵の館は」
俺たちは息も切らせずに到着した。思念体だからそう考えればそのまま現実になる。俺たちの考え得る事で、俺たちの意思か強ければだが。
「ゼロ様にゃ! ルシルちゃんもにゃ!」
館の前で俺たちを呼ぶ声がする。
猫耳娘の姿に身体変化しているカインだ。
「久しいな! 元気だったか?」
「久し振りじゃないにゃー!」
そう言いながらもカインは俺に抱きついてきた。
俺の知っていた頃のカインよりも、より女らしい身体付きになっている。
まあ、身体変化が解ければ男の子なのだが。
「セシリアさんが大変なのにゃ!」
「らしいな。町でも噂になっていた。だがカイン、お前はどうしたんだ? ここにいるなら看護しているとかなら判るが」
「ボクはお薬をもらいに行こうとしていたのにゃ。中にはお姉ちゃんがいるにゃ、行ってあげて欲しいにゃ!」
「そうか。だったら薬はいらなくなるかもしれないぞ。俺だけじゃなくてルシルもいるんだからな、治癒のスキルにかけては最高級の手当てができるぞ」
「それは頼もしいにゃ! ならすぐに来て欲しいにゃ~!」
俺はカインに手を引かれて館の中に入る。
豪華な装飾とビロードのカーテンで飾られた廊下を何回も曲がって進んだ先の部屋に入った。
「お姉ちゃん、ゼロ様たちが来てくれたにゃ!」
「ゼロさん!?」
部屋は天蓋付きのベッドが中央に置いてあり、そのベッドの脇でシルヴィアが椅子に座っている。
ベッドにはセシリアがいて、上半身を全て脱いでシルヴィアに身体をぬぐってもらっていた。
「ひゃぅ、む、婿殿じゃないか!」
驚いたセシリアがシーツを胸にかき抱く。
「悪いが済まん! 怪我をしていると聞いて飛んできた!」
俺は恥ずかしそうにしているセシリアを見ないようにしながら、ルシルに手当てを頼んだ。
「任せておいて。でもゼロはあっち向いてて!」
「ハイハイ」
「ハイは一回!」
「ハーイ」
「ハイは伸ばさない!」
「ハイ」
俺はセシリアに背中を向けて、それでもルシルの治療する様子を気にしながらもセシリアに聞いてみた。
「一瞬見ただけだけど、背中にかなり酷い傷があったな。それも大きな爪で引っ掻いたような荒れた傷口が」
「ゼロ、見たの?」
ルシルの声が怖い。
ま、まあ、上半身は全部見たと言えば見たんだが。
「いいのだルシルちゃん。婿殿には俺の全てを見せても……問題は、ないからな……」
「そう言って恥ずかしがっているじゃん、副ギルド長さんはさ!」
「な、いや、俺はもう昔の副ギルド長ではなくてだな、レイヌール勇王国の警備隊長でもあるんだが」
そうだ。俺が離れた時は、セシリアが王国の警備隊長をになってくれていた。
「セシリア、その警備隊長が怪我で療養中という事はいったい……」
「婿殿には連絡が行っていなかったか。あれからだいぶ捜索の網を広げたつもりだったが……」
「捜索?」
「ああ。婿殿たちは平原の小屋から突如としていなくなってな。当時はそれ程気にしないようにしていたのだが、今のこの状況では前国王である婿殿に頼むしかないと思っていてな」
「それで探していたというのか」
「ああ」
俺たちがどの段階でいなくなったのかは判らないが、精霊界や冥界へ行った後の時代かもしれない。
「それで、今はいつでお前になにがあったんだ、セシリア」
「うむ、奇妙な質問だがまあいいだろう。今は新王になってから二年。婿殿がアリア様に王位を譲られてから二年が経っている。そして俺が受けた傷は、巨大な白いドラゴンの一撃によるものだ」
「巨大な……ドラゴン」
それは天界の白龍の事か。
俺たちが戻ってきた時代はほぼ目的通りだったわけだが、既に天界からの攻撃は始まっているという事だ。
俺は、不安と憤りを感じて胸が苦しくなった。