時空の狭間がつなぐ場所へ
俺たちは地下迷宮の入り口からずっと、これまた大変な冒険を経て最深部に到達した。
「いろいろあったねえゼロ」
「ああ、でも一度通った道だし、俺が行った時には罠とかいろいろあったけど今回はなかったし、よく見ればまだできたばかりの洞窟だったようだな。魔獣の数もそんなにいなかったし、そこまで大変じゃなかった」
「そうだねえ」
「でも、これも思念体での行動だから、外部から見たら一瞬にも満たない出来事なのかもしれないな」
「そうかもしれないね。冥王さんみたいに他人から見える時間と違うみたいだもんね」
とにかく千年前に飛んできた俺たちは地下迷宮の奥に見える小さな石を見つけられたわけだ。
「あれが茫漠の勾玉……千年前の時代にあった勾玉なのね」
洞窟の一番奥に鍾乳石のような盛り上がったテーブル状の岩があり、その上に小さな石が乗っかっていた。
「これで茫漠の勾玉が二つ、いや同じ物が時代を経てこの場に存在するんだ……」
「変な感じだね。おかしな事にならないかなあ」
「どうだろう。まあ同じ物と言っても、俺が持っているのは今の俺たちから考えると未来の勾玉だが、あくまで写し身だからな」
俺は洞窟に置かれている茫漠の勾玉に近づく。
「ねえゼロ、なんか少し光っているよ……」
ルシルが指摘するように、勾玉は青い光をぼんやりと放ち始めた。
「お……」
それは俺が持っている勾玉も同じで、ルシルの持っている銀枝の杖もいくつかの宝玉が光り始めている。
「ほう」
俺が置かれている勾玉に近づくと光がどんどん強くなっていく。
「大丈夫? 危なくない?」
「判らん。だがなにかが起きるし、起こさないと……」
俺が近づく事で、両方の勾玉と杖の宝玉が眩しい程に光を強める。
そこで呼吸を落ち着け意識を集中させると、光が強いのに眩しく感じられなくなってきた。光が強くなってきているのは判る。ただ、それでもまともに見る事ができるんだ。
「ねえゼロ……石の形……」
「ああ」
俺の持っている写しの勾玉の姿が歪んでくる。石は石なのだが、その輪郭が波打つように揺れているんだ。
「振動が……俺の手の上で……勾玉が振るえている……」
「ゼロ、私が……」
ルシルが近づいてきた時。
銀枝の杖がひときわ輝いたかと思ったら、次の瞬間に俺が持っていた勾玉が杖にくっついていた。他の宝玉と同じように杖の上部に貼り付いている。
「く……っついた? うわっ!」
ルシルは勾玉が放つ光の爆発に目をつぶって杖を前に突き出す。光源を自分の顔から遠ざけようとして無意識に行った事だ。
「お、おい、ルシル……勾玉同士が……」
「光の帯……? 勾玉と勾玉が光の帯でつながった……」
急に足下が揺れ出す。勾玉に反応しているかのように。
「ゼロ! この揺れ……危ないよ!」
「いや、これでいいんだ! 確信はないけど、地上界を意識すれば!」
「見えてくるかな!?」
揺れはどんどん大きくなり、卵の殻に入るヒビのような音が聞こえた。
「ゼロ、上!」
ルシルと共に天井を見上げる。
さっきまでつららみたいな鍾乳石がいくつもぶら下がっていた天井にヒビが入って、その隙間から青い空が顔をのぞかせた。
「うそ……だってここは地下迷宮の奥だよ……」
「大丈夫だルシル、ここは冥界で思念体の力が及ぶ世界だ。なにが起きてもおかしくはない!」
「そ、そうだけど……」
俺はルシルの肩を抱いて落ち着かせる。
ここは俺が言ったように、想像する力が全ての空間だ。だからここで見えている空はきっと……。
「地上界!」
ルシルの目が輝く。
「ああ、時間をさかのぼって、俺たちがいた時代の世界だ!」
ルシルが杖を持ち俺がその上から手を添える。
二つの勾玉から伸びる光の帯が天井を照らし、空が広がっていく。
「身体が……」
吸い寄せられるように俺たちの身体が浮かびだし、空へ向かって登っていった。
「冥界から地上界へ戻るのに、地の奥から這い上がっていくみたいだな」
「そう? 私は身体が浮かんできた時、天界に連れて行かれるんじゃないかって思ったけど」
「あー、そういやあ天界の連中が襲ってきたっていうのがそもそもの話だったよな」
俺たちは光に包まれながら天井のヒビに向かって登っていく。
「このまま天界へ行って面倒な事をやってくれた奴を倒しちゃったらいいかもな」
「もう、ちょっと先走りすぎじゃない?」
いつもの軽口が出るようになってきた。
そうだ、この調子でこれから起きる事もどうにかなる。きっと片付けられるさ。
光は俺たちを飲み込み、白い光すらも透き通るくらいの明るい真っ白な世界に包まれていった。
【後書きコーナー】
冥界から地上界へと向かっている所で本章終了、次話からは新章、千年前の地上界で冒険します。
引き続きお付き合いいただければ嬉しいです。