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現在と過去の共鳴

 暗闇の中にぽっかりと浮かぶ地面、その中央に見える大きな穴。


「これ……」

「ゼロ、見覚えあるの?」


 不思議そうに見るルシルにうなずいてみせた。


「俺がさっき、茫漠ぼうばく勾玉まがたまを取ってきた地下迷宮の入り口だ……」

「うそ……」


 つま先が地面に付く感触。重力を感じて徐々にかかとまで付けていく。ルシルも同様に地下迷宮の近くに下り立った。


「俺は……うん、茫漠ぼうばく勾玉まがたまを持っているな」

「私も銀枝の杖はしっかりつかんでいたよ」

「だとすると、なんでここに来たんだろう……」


 俺は右手に持った茫漠ぼうばく勾玉まがたまを見る。丸みを帯びてすべすべする石で、少しひんやりとした。


「そういえばさ、冥王さんがその石を安全な所に置いといてって言ってなかったっけ」

「うーん。今が過去だとして、俺たちの魂の器っていうのかな、それは冥王たちに見てもらうしかないけど、この勾玉はそこら辺に置いてはおけないよな」

「そうだよ、これを目印に地上界から戻ってくるんだから」

「だよなあ。でもさ」

「なによ」

「俺が勾玉を持って、ここの地下迷宮に勾玉があって、同じ物が二つあるって事だよな」

「ん?」


 ルシルは一瞬ポカンとする。


「あ、そういう事ね。ここ、過去には勾玉がそのまま残っている。ゼロが持っているのはここから考えると未来の勾玉で、それを転写して持ってきている訳だから」

「転写だから本物はまだ未来にあるが、俺の持っている写しの勾玉が道しるべになってくれるって冥王が言ってたぞ」

「そうなんだ。道しるべねえ」


 俺はルシルを左腕で抱え込む。


「な、こんな時になにしようとしてんのよ……」


 言葉では嫌がるような態度だが、抵抗はしないで逆に俺にもたれかかってくるような様子だ。


「ルシル、思念伝達テレパスを使ってくれ。俺と意識を共有する」

「え、ああ……」


 俺の腕の中で少し気まずそうにするルシル。


「どうした?」

「あ、ううん、なんでもないから。ちょこちょこ思念伝達テレパス使ってゼロの事を聞いていたとかってないから!」


 あ、あー。


 ルシルの慌てる意味が解った。

 たまに俺の思考を読んでいたりするんだ。無意識にルシルの考えている事が俺と同じだなあって思う時があったけど、それはそういう理由だったのかなあ。

 俺が冥王の胸をたまたま視界の中に入れてしまった時とかな。


「あ、でもたまに、たまにだから! 他に誰かいないか探知している時に偶然ゼロの意識が入ってきちゃうっていうか、あの、ね……」

「ふむ……」


 俺はわざとらしくルシルの頭をちょっと強めになでた。


「ゼ、ゼロぉ……」


 少し涙目になるルシル。

 まあいいけど。別にルシルに知られて困る事もないだろう。今度それに気付いたら、裸のルシルにあんな事やこんな事をしている妄想を垂れ流してやろう。


「別に気にするな。俺も気にしていないし」

「ほんと……?」

「本当だよ。思念伝達テレパスを使わせようとしているんだ。嘘かどうかなんて判っちゃうだろ?」

「そ、そうだね……」

「まあそれはいいとして」


 俺は乱れた髪のルシルの頬をなでる。


「今は俺と考えを同調するんだ」

「どうするの?」

「俺がさっき、と言っても未来でやっていた事だが、意識だけでこの地下迷宮を攻略する。それにルシルも一緒に付いてきてもらうんだ」

「え? ああ、なるほど……解った。ドラゴンとかとも戦うの?」

「ああ。戦いはするけど未来で戦った暗黒龍とかはここにいるかどうか判らない。今、過去の時代で俺が倒していたら未来の俺が倒せないからな」

「うーん、難しいね……」


 ルシルは眉根に皺を寄せて悩んだような顔になった。


「そうか? まあ未来が俺たちのいた現在で、そこから見た千年前が今俺たちのいる時間だからな。解るとそんなもんだが……実際の時間はほとんどかからない。凝縮した攻略になるぞ」

「うん、付いていくよゼロ」


 思念体のそのまた写しの俺たちだが、抱きしめ合って互いの存在を確認しながら、地下迷宮の入り口へと踏み入った。

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