ご注文の品です
ジミースとペルセナがなにやら企んでいる様子だ。
だだっ広い草原で、四人だけがぽつんと存在している世界。他に生物は何一つとして存在しない。鳥も虫もだ。
「と、言うわけでだ。千年前の事を知るには千年前に行ってみる事がなによりも手っ取り早い」
「なるほどな」
千年前になにがあったのかを調べるんじゃなくて、そこへ行く。これは乙凪が言っていた精神は時を超えるってやつだな。
「海王も言っていた事だ。そして聖戦に立ち会えと」
「ほう」
ジミースは俺の顔をまじまじと見た。
「マーメイドの話をしていたからもしかしてって思っていたけど、やっぱり勇者ゼロは海王と接触があったんだねぇ」
俺の周りをぐるぐると歩いて、なめるように全身をくまなく観察している。
「だからさっきも海底の情景がうまく表現されていたし、竜神の逆鱗も使った事があるのだろうね、すごく現実的にできていたよ」
「そりゃどうも」
「やっぱりボクの目は間違っていなかったようだよ」
ジミースはまた俺の肩に腕を回す。俺の肩がジミースの大きな胸に押し当てられて柔らかな感触と大きく変形した胸を横目で見たが、気にしないようにしておこう。
でないとルシルが……怒るかもしれない。
「だからキミたちには、茫漠の勾玉を持ってきて欲しいんだ」
「茫漠の勾玉?」
「そ。これはね、なかなか手に入れるには苦労させられるんだけどさ」
「そんなに大変なのか、取りに行くのに」
ジミースは真剣な面持ちでうなずく。
「いいかい、茫漠の勾玉はこの冥王の住む城……あ、今はこの平原か。ここから北に十日程歩いた所にある地下迷宮の最深部に安置されているんだ」
「地下迷宮か」
「うん。でもそれだけじゃないんだ。茫漠の勾玉はその恐ろしいまでに強大な魔力によって近くの魔物を呼び寄せてしまうんだ。しかも呼び寄せられた魔物は、更に変異を重ねてまがまがしい姿となって襲ってくるんだよ」
恐怖をあおろうとしているのか、ジミースは熊が立ち上がって爪を振りかざすような格好をして魔物の動きを真似ている。
「それに毒の沼地や炎を噴き出す廊下、そして茫漠の勾玉を守るのは呪われし暗黒龍。その声を聞くだけで心の弱い者は魂さえも霧散してしまうという程のものだ」
おどろおどろしい振る舞いのジミースを見ているだけで、その難易度がかなりのものだと思ってしまう。
「ねえゼロ、時間もかかるみたいだし、面倒じゃない? ドラゴンとかに負けるとかは思わないけどさ」
「うーん、ちょっと待ってくれるか?」
「うん。行くかどうか、悩むよね」
ルシルはこの探索にあまり前向きじゃないみたいだ。
ジミースが楽しそうに俺の顔をうかがう。ペルセナはつまらなそうに腕を組んでうろうろと歩いていた。
「さあ勇者ゼロ、そんな大変な大冒険に挑んでみるかい?」
挑戦的な目で俺を見るジミースの鼻先に、懐から取り出した丸い石を突き出す。
俺が見せたのは、丸く平たい所に尻尾のような突起が付いているような、すべすべした深緑色の石だ。
「そ、それは……」
ジミースはあっけにとられてそれ以上言葉が出ない。
「今、取ってきたんだよ、その地下迷宮に行って、な」
俺の言葉をそのまま聞いたルシルはきょとんとしている。石を持っている俺を見てペルセナが目を剥いて驚いていた。
ジミースといえば、物知り顔でニヤニヤと俺を見ている。
深緑の石をジミースに手渡すと、指でこすったり日の光に透かしてみたりしてなにかを確認しているようだった。
「勇者ゼロ、合格だよキミは!」
ジミースは俺の背中を力一杯叩いて宣言する。
俺が持っていたのは、正真正銘茫漠の勾玉だという事だ。