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世界を変える力

 遠くには活火山の噴火口がいくつもあり、周りは固まった溶岩で覆われている。ところどころ空いている穴からは、熱い蒸気や溶岩が噴き出していた。


 ジミースとのやりとりを聞いている限りでは、このペルセナって言う奴も冥界では有力者なのか。こうも簡単に周りの風景を変えてしまえるなんて、どれだけの力を持っているんだ。


「すごいな……熱さまで伝わってくる」

「ゼロ、冥界に来たら温度変化無効のスキルは発動していないのね?」

「そうみたいだ。ちゃんと熱が……となると、今の俺なら燃えるって事か!?」


 これだけの熱気だ。溶岩にでも触れたら温度変化無効のスキルが発動していない俺では燃え尽きてしまうかもしれない。たとえ火蜥蜴の革鎧を着ていたとしても。


「想像しちゃ駄目だよゼロ!」

「おおっと、そうだった」


 余計な事を想像してしまうと、それが現実に起きてしまうかもしれないな。


「でも待てよ」


 ジミースの服を俺の想像で消す事ができた。

 ルシルの服はできなかった。


 この違いは、俺が変えようとした対象物の所有者がそれを認めていたかどうかだ。


「だが、ペルセナは風景を塗り替えてしまった」

「うん」


 ジミースとペルセナが向こうでなにやら口論しているが、俺とルシルはその様子を見ながらも別の事を話している。


「この溶岩の地形はペルセナの怒りが引き出した物で、ジミースの想像力をしのいでいたと考えられるな」

「そうだね」

「だとすると、俺が普段考えている事、考えられる事で、この世界の上書きができるかもしれない」

「上書き?」

「そうだ。流石に俺も知らない事を想像するのは難しい。だが、俺が見知った世界、見知った風景なら……」


 俺はルシルの手を握って顔を覗き込む。


「俺たちは竜神の逆鱗を口に当てている。想像してくれ」

「うん……」


 俺たちの口元に竜神の逆鱗が織り込まれた口当てが作られる。


「次に……」


 俺はルシルに耳打ちし、ルシルはそれにうなずく。

 俺たちは目を閉じ、握った手に力を入れる。


 遠くで聞こえていたジミースたちのやりとりが徐々に聞こえなくなっていく。

 それだけ集中しているという事なのだろうな。


「よし!」


 想像力を全開にすると、俺たちの身体を冷たい水が包み込む。

 目を開ければ、そこは冥界に来る前に俺たちがいた風景が広がっていた。


 海底、水の底だ。


「ぼがっ!」


 ペルセナが目を白黒させて驚いていた。

 言葉を発しようにも海の中だ、ガバガバと泡が出ていくだけで言葉にならない。


「火山を海にしたんじゃなくて初めから海底だったように俺たちの想像が世界を塗り替えたんだ。世界がこの状況になったって事は、この海水も現実」


 俺は竜神の逆鱗があるから呼吸もできるし会話もできる。


「水の中という事は認識できたようだな。ならこれを使うといい」


 俺は道具入れの中で作りだした竜神の鱗をペルセナに手渡した。


「これを咥えていれば呼吸はできる。水の中でもな」


 竜神の逆鱗にしないのは、まあなんとなくだ。


 ペルセナはどうにか海底でも息ができるようになって落ち着きを取り戻す。

 なにかをしゃべろうとすると、咥えている竜神の鱗を放してしまうので、相変わらず会話はできないが。


「ジミースは平気みたいだが?」


 海底にいるというのに落ち着き払っている冥王ジミース。

 そもそも呼吸しているようなそぶりもない。


「だんだん理解してきたようだね、勇者ゼロ」

「海中でもしゃべれるのか」

「そうだよ、それは君たちだって同じじゃないか」

「いや、俺たちは竜神の逆鱗を当てているから息もできるししゃべる事もできる。それは俺たちが経験してきた事だからだ。知っているからな」

「じゃあボクも同じだよ。ボクの身体はそもそも息をしない。冥界の王だからね、既に息の根が止まっているんだよ」


 ジミースは高笑いする。

 確かに冥界では呼吸そのものが関係ないんだろうな。魂の存在なのに、生きている頃の肉体の動きに縛られている俺たちと違って。


「俺もそこまで想像できれば、また違った動きができるのかもしれないけどな」

「でもね勇者ゼロ、キミたちはこうやってペルセナの想像力よりも勝った力を発現させたという事だよね」

「ああ、今俺たちが海の底にいるなら、そういう事だろうな」


 ペルセナが目をシバシバさせながらなにかを訴えようとしている。


「よし、一度地上に戻るぞルシル」

「え、もういいの?」

「一旦、俺たちが前に住んでいた草原に戻ろう」


 俺が風景を想像してルシルが思念伝達テレパスで俺の考えを補強していく。互いに形を認識する事で、より強固で繊細な世界ができあがる。


「ほう……」


 ジミースが驚きながら辺りを見回す。

 そこはもう、どこまでも続く草原と青空が広がっていた。

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