思念体の接触と魂の感覚
暗い闇。俺の身体にまとわりついてくるような重たい闇だ。
いや、俺の身体は既に引き剥がされて思念体だけの状態になっているらしい。
「ルシル、聞こえるか?」
俺は真っ暗闇の中で話しかける。声が伝わるかどうかも判らないがそれでもルシルと連絡を取りたい。
「ゼロ、聞こえてるよ。大丈夫?」
ルシルが手を握ってくれるような感じがした。俺の顔にルシルの手が触れるような感覚も。
俺はルシルだと思われる想いを捕まえようと必死に手を伸ばす。
「落ち着いてゼロ、私はここにいるから」
手を伸ばした俺を正面から受け止めてくれるような感覚。ルシルが俺を抱きしめてくれるようなそんな柔らかく温かい感覚だ。
「不思議だ……。温度変化無効のスキルを持っているのに、ぬくもりを感じるなんて」
「ゼロ、それは身体につながる能力だから、思念体の今だと感じる事が感じられるのよ」
「ん、よく判らないな……」
「そうねえ。心と気持ちなの」
「心と、気持ち?」
「そう。温かいと思えば温かく感じるし、冷たいと思えば冷たく感じる。想いの力が影響するのよ」
「ほう……。じゃあ俺は柔らかいのと温かいのを感じているっていう事か」
「うん……柔らかい……?」
ルシルの手が俺の背中に回って、少しだけ背中に痛みを感じた。
「おい、ルシル、背中をつねっただろ?」
「えへへ、判った?」
真っ暗闇だが、ルシルの柔らかさ、少し甘い香り、そしてぬくもりを感じる事ができる。
なにも見えない中でも、ルシルがいてくれる事で俺は安心している自分に少し驚いた。
「ありがとうな、ルシル」
「うん、いいよ……」
俺たちは抱き合いながら暗闇の中を飛んでいく。
「なあルシル」
「なに?」
「どうしてルシルは思念体の事をこんなに知っているんだ?」
「うーん……」
俺の心の中にルシルの気持ちが流れ込んでくる。少し戸惑うような、悩むような。
「べ、別にいいぞ、言いにくい事だったら」
「ううん、いいよ。ゼロにはきちんと話しておきたいから」
「そ、そうか」
俺の方が焦っているみたいだな。少し落ち着こう。
心臓の鼓動なんて存在しないのに、俺は胸の高鳴りを押さえようと深呼吸する。
「私ね、魂を移動させたりしていたでしょ」
「ああ。器の中に入ったり、レイラ……お前の妹に力を奪われたりしていた事もあったからな」
「うん。今入っている身体も、元々はバイラマの身体だったからね」
「それで魂の感じ方とか操り方を熟知していたのか」
「そういう事。だからゼロ」
あ、こういう時のルシルはすごくお姉さん気質が出てくるんだった。
「冥界にいる間は、私を頼ってくれていいんだからね?」
真っ暗な中でも判る。ルシルは上から目線で俺を見ている所だろうな。
「あ、ああ。そこはルシルを頼らせてもらうよ」
「よろしい!」
ルシルは俺の首に腕を回して抱きついてくる感じがした。
「なあルシル」
「なあに?」
なんとなく口調もお姉さんっぽくなっている気がする。
「この肌の触れあう感覚ってさ……」
俺は触れている部分の感触に神経を研ぎ澄ましてみた。
俺の胸の部分にルシルの柔らかい部分が押しつけられている。それが動くたびに少し固めの部分が俺の胸板に当たってくるんだが……。
「もしかして、裸……なのかな」
「んにゃっ!?」
可愛い驚きの声が上がったと思ったら、さっきより少し強めに背中をつねられた感触があった。