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生き残りがいたとして

 竜宮城の明かりが周りの海を照らす。

 うすぼんやりとした明かりで太陽の光に比べたら小さい光だが、真っ暗な海底にはそれでも明るく感じる。

 深い海の底だからあまり近くにいる魚は黒や灰色の地味な色合いのものばかりだが、銀色に光る鱗や青白い光を放っている魚などが泡の膜の外を泳いでいたりすると、暗い海でも賑やかさがあるというものだ。


「そうか……」


 俺の声はあまり遠くまでは響かない。海の壁にさえぎられて、部屋の中にいる者にしか聞こえないくらいの小さな声だったが、乙凪おとなの耳には届いていただろう。


 乙凪おとなの話はなんとなく理解できた。

 俺たちの国が白龍に襲われ、そこから一切の歴史が途絶え、スキルの使えない者たちがその空白の地に広がったというのだ。


「だが、千年も前の事なら、今更俺がどうこうすることもできない……」


 俺は珊瑚の椅子に座りながら、床に目を落とす。

 何もできない自分の無力さに、目頭が熱くなる思いだ。


「確かに。わたくしたちでも時を操る事ができる訳でもありません。時の流れが異なるといいましても、流れをさかのぼる事は……」


 そこまで乙凪おとなが言ってから、沈黙が訪れる。

 俺だってどうにかしてやりたいし、できる事なら俺がその場にいて白龍どもを撃退したい。


「そうだ、ベルゼルは。あいつはどうだ、千年後でも生きている可能性はある」

「ベルゼル殿とは……?」


 乙凪おとなはおうむ返しにその名を口にする。


「ルシルの、魔族の副官だった男だ。あの頃でももう二百歳は超えていたはず。魔族であればそうそう死んだりはしないのではないか」

「それは、期待できるのですか?」


 俺はただ横に首を振るしかない。判らないのだから。


「だが、千年。それだけの時を生きる者たちも必ずいるはず。錬金術師アルケミスト死霊魔術師ネクロマンサーのピカトリスや、ワイバーンのウィブとかも……探せばどこかに」


 それでも千年だ。その頃二百歳程度だとしても、千年も生きていられるか?


 俺が生き残っているであろう連中の事を考えていた時、海の中が慌ただしくなってきた。


「なんだ……?」


 ボコボコと泡が立ち、その奥から小さい光が近づいてくるのが判る。

 魚たちが一斉に逃げて道を空けるようにいなくなった。


「お……」


 光がだんだんと近づいてきて、その光が人の形を浮かび上がらせていく。

 その人の形は竜宮城の明かりに照らされてよく見えるようになる。


「ルシル!」

「ぶはっ!!」


 空気の膜をすり抜けて部屋の中に入ってきたのは、竜神の鱗を口に咥えたルシルだった。

 ずぶ濡れの身体のまま部屋に入ってきて、手に持った杖を見せる。


「ルシル、俺たちの会話は聴いていたか?」

「うん、思念伝達テレパスで共有できていたよ」

「そうか。それで、その答えがそれか」

「そう、銀枝の杖!」


 ルシルの持つ杖は銀でできていて、その先は木の枝のように何本も分かれており、木の実のように無数の宝玉がぶら下がっている物だ。


「これは?」


 乙凪おとなが銀枝の杖をまじまじと見つめる。

 ルシルが乙凪おとなに説明をしてくれた。


「前に私たちが冥界に行った時は肉体ごと行ったのね」

「冥界にですって!?」

「そう。本当だったら冥界は魂や思念体が行くところなんだけどさ。でね、その冥界の力も取り込んだ宝玉がこれにも付いているのよ」

「なんと!」


 乙凪おとなはゆっくりとルシルに近づき、銀枝の杖に触れる。


「どうだ乙凪おとな

「これであれば……いいえ、これでなくては」

「行けそうか?」


 乙凪おとなは俺の目を見てゆっくりとうなずいた。


「精神は時を超えられます」

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