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海底の大女王

 竜宮城に案内された俺は、辺りの様子をよく見てみる。


『なんか……変わってる?』


 俺はつぶやく訳ではなかったが、ルシルに思考を飛ばしてみた。


『ゼロ、ちょっと私そっちに行くのが遅れそうなの!』


 思っていた返事ではなく、少し慌てたような声が頭の中で響く。


『大丈夫か、そっちでなにかあったか?』

『ううん、平気。多分……』


 言い方が気になるな。一旦丘に戻ってもいいのだが……。俺の周りにいっぱいいるマーマンたちをどうにかすれば、だが。


 周りは前に見た竜宮城と同じような感じだった。最後に見たのは復興中の物だったし記憶にある限りのものだから細かいところまでは覚えていないが。


 海底からなにか管のようなものを引っ張ってきて空気を集めているのか、俺が通された部屋には呼吸できるくらいの空気があった。

 柱にかかっている透明な球は海の上にこれもまた管のようなものがつながっていて、そこから明かりを採っているのだろう。部屋を明るくするには十分な光量が放たれている。


「あ、あー」


 俺は試しに声を出してみて、しゃべれる事を確認した。


「人間、海の中を呼吸できるとは驚いたぞ」


 マーマンの一人が部屋に入ってきて、いかつい笑みで話しかけてくる。

 鱗に覆われた身体は筋骨隆々で、三つ叉の槍を持つ腕も太い。なかなかに鍛えているようだ。


「竜神の鱗をもらっていたんでね」


 俺は加えていた物をマーマンに見せた。


「ほう、地上の人間が持っているとは珍しい」

「そうかもしれないな。俺も乙凪おとなからもらったから使っているが」

「な!? 乙凪おとな様が、だと!?」


 マーマンがあまりにも驚くものだから、部屋の外で泳いでいた魚たちがびっくりして遠くへと泳ぎ去ってしまう。


「そうだ。ここの主ではないのか、乙凪おとなは」

「お、乙凪おとな様は……確かにここ、竜宮城の大女王だが……」

「大女王? まあいいや。俺はゼロ。ゼロ・レイヌールだ。俺の名を出せば乙凪おとなは判ってくれると思うが、取り次いでもらえるかな?」


 俺は竜神の鱗を懐にしまい、近くにあった珊瑚の椅子に腰を下ろす。

 戦う意思はないし余裕のある所を見せれば話も通りやすいと思ったからな。


 それにしても乙凪おとなが大女王とか言われているなんてな。


「頼めるかな?」

「う、うむ、我の一存では決めかねるからな、上役に相談してくる。そなたはそのまま待っておれ」

「判った。でも早めに頼むぞ」


 マーマンはどうしていいか判らなくなっていそいそと部屋から出て行く。


 網を破っていたマーメイドが部屋の外から俺をのぞき見ていたから軽く手を振ってみたら、これまたびっくりした表情で海藻の林の影に隠れてしまった。


「そう怖がらなくてもいいのになあ……」


 ちょっと傷付いた。ちょっとだけだが。


 俺は部屋で一人待つ。

 部屋の外で泳ぐ魚や海底を這うようにして動いている甲殻類を見て時間を潰していた。

 それ程長い時間ではなかったとは思うが、海底は時間の流れが違うと言う話も聞いていたからな。実際はどれだけ時が経っているのだろう。


「おお……」


 部屋の奥から大人びた声が聞こえた。


「お久しぶりですわね、ゼロさん」


 前に聴いた懐かしい声ではあるが、少し低音になっただろうか。

 目の前に立っているマーメイドは、大人の魅力満載の身体付きでついこの前に別れた時の乙凪おとなの姿からかなり成長しているようだった。

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