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海底への道案内

 日は高くこれからまだ気温が上がりそうだ。

 海風は心地よく、近くの木々も塩気を帯びた強い風に枝を揺らしていた。

 砂浜に寄せる波の音だけが耳に入ってくる。


「ちょっといいかな」

「なんだあんたら」


 漁師の娘だろうか、破れた網を修理している手は止めずに受け答えしてきた。

 少女は日焼けをしている顔で見知らぬ俺たちを怪しそうに見ている。


「この辺りに住んでいる者かな。大人はいるだろうか」

「大人? そんなもんはおらん」

「いないって事か?」

「んだ」


 少女は少しかすれた声で返事した。


「大人がいないって、まさかここは子供たちで暮らしているとか……」

「んだ、おらたちは子供だけで暮らしてんだ。大人なんか知らね」

「そ、そうなのか……」


 子供たちだけで暮らす集落でもあるというのか。大人がいない、子供たちだけの。


「ねえゼロ、この子……」

「あ!」


 少女の手に持っている小さな道具がキラリと光る。それは貝殻を使った物だろうか、網を直す針と言うよりは小さなナイフに似ていた。

 そのナイフを動かすと、その部分の網が切れてほどける。


「それ、網を直しているんじゃなくて……」

「しまった、ついやりながら話しちまった!」


 少女は網を放り投げると、破れた網が俺に覆い被さった。


「ぶわっ、ぺっ、ぺっ!」


 砂が口の中に入ってジャリジャリいう。


「ゼロ大丈夫!?」

「あ、ああ、酷い目に遭ったけど……ちくしょう、あの子供は……」


 俺が目をこすってどうにか周りを見た時、あの少女は海に入っていた。

 波間から上半身だけのぞかせていて、俺たちを見ている。


「こらぁ! なにするんだっ!」


 俺は砂を吐きながら少女に向かって海に入ると、だんだんと海が深くなっていく。


「あ、おろっ!?」


 もう俺のアゴの所まで波が届くようになっているが、少女はもっと先にいて俺をからかうように笑っていた。さっき見た時と同じように、上半身は海面から出ている状態でだ。


「お、おかし……ごぼごぼっ……」


 俺が少女に近寄ろうとして進んでいくが、もう足は海底に届かないくらい水深がある。


「ど、どうして……」


 少女は笑いながら俺の先をすいすいと進んでいく。立ち泳ぎでもしているのだろうか。それにしては安定して泳いでいる。


「ゼロー!」


 浜辺からルシルの声が聞こえてくるが、それも波の音にかき消されてほとんど聞き取れない。


「仕方がないか」


 俺は前にもらった竜神の鱗を口に咥えて海に潜る。水の中でも呼吸ができる逸品だ。

 咥えたままになるからしゃべる事はできないが、ルシルとであれば思念伝達テレパスを使えば意思の疎通は図れる。


『ゼロ、大丈夫?』


 ルシルから念話が届く。


『ああ、このままあの少女を追うぞ』

『私はどうしようか?』

思念伝達テレパスの届く範囲であれば、まだ岸にいてもらった方がいいかな』

『判った。遠くに行きそうなら教えてね。追いかけるから』

『ああ』


 俺はルシルと念話をしながらあの少女を追う。

 海中から少女の方を見ると、立ち泳ぎしていたのは足ではなく魚の尾ビレだった。


 やはりな。少女は人間の女の子ではなくマーメイドだったのだ。

 以前マーメイドは見ていたからな、なんとなく少女を見た時に直感でそう思えた。


「んだ!?」


 マーメイドの少女は息継ぎをしないで自分に迫ってくる人間を見て驚いたのだろう。慌てて海の中に潜り、そのまま海の深いところへと泳いでいく。


 それを見逃す俺じゃない。海底の都市へと案内してもらおうか。

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