海の近くで感じたもの
辺りは荒野から外れて風に塩気を感じるようになってきた。
「海が近い……」
俺とルシルはボンゲ公国の中央都市から出て、ひとまず北へと向かうようにしたのだ。
根拠はないが、まっすぐ行けばどこか知っているところへ出るかな、と思って。
「そうだね~。なんのあてもないのにとにかく進んじゃって、どうしたのかと思ったよ」
「でもなあ、アカシャとかに聞いてもこの辺りの土地は知っている町も山もなかったからなあ」
「冥界から出てきて、遠くに飛ばされちゃったのかなあ」
ルシルに頼んでみたが、思念伝達には知っている奴の反応が全然ないという。
そうなれば、どこを目指しても同じだと考えたのだ。
「ゼロ、海を目的としたのってなんで?」
「説明していなかったか。えっとな、海だったら港とかがあると思うし、もしかしたら沿海州とかの情報があったりしないかなってさ」
「船乗りたちの話なら、噂だけでも伝わっているかもって事ね」
「そう。それに宝玉だ」
「宝玉?」
ルシルは不思議そうな顔を俺に向ける。
「宝玉一つであれだけの騒ぎを起こせる。それだけの力を持っているというのもすごいが、もしかしたら竜宮の連中なら宝玉の事をなにか知っていないかと思ってな。海に行けば、連絡が取れるかもしれない」
「そっか」
納得してくれたかな。ルシルはニコニコして俺の後についてきた。
「ほら、海が見えたよ!」
ルシルは潮風に髪をなびかせて、俺の前に出る。振り返ったルシルの顔は長い旅の中で出会った久し振りの海のように輝いていた。
「この辺りで人の多い所はありそうかな?」
「う~ん、知的生命体っていうのだと……そうねぇ……」
ルシルは思念伝達を使って反応のありそうな方向を探す。
「あっち……人がいそうだけど、行ってみる?」
「ああそうだな、行ってみよう。ありがとうなルシル」
「えへへ」
俺はルシルの頭を優しくなでるとルシルは目を細めて喜ぶ。
「よし、行くか」
「うん!」
俺たちはルシルが感じた方向へと足を進める。
それ程行かなくても人の住む気配が見えてきた。
入り組んだ海岸線には漁に出る船が数隻あり、小屋や灯台だろうか、人工物もちらほらと現れてくる。
「近くに人がいればいいんだが……もう日も高いからなあ」
「漁は終わっちゃったかな?」
漁師の朝は早いらしい。その分昼にもなると船の近くには人がいない事もあるようだが。
「お。あそこに誰かいるな」
たまたまだろうか、船の隣で座っている人影が見えた。広げた網を手元でいじっていて、どうやら網を直しているようだ。
「ちょっと失礼するよ」
俺は近づいて声をかける。
潮風でゴワゴワになっている髪を荒縄で無造作に束ねて、ボロボロの服で申し訳程度に身体を覆っている姿。
「んあ、なんだ?」
座ったままそいつは顔だけを上に向けて俺を見る。
日に焼けた顔はまだ幼い少女のものだが、その緑色の瞳は命懸けの戦いを繰り広げたような戦士の眼差しだった。