魔王の右腕
魔王の右腕を自負する魔族の実力者ベルゼル。魔界の貴公子とも呼ばれるその姿は端整な顔立ちも手伝って、人気も高く人間にも崇拝する者がいるほどだ。
「ワタクシの力はご存じの事かと思いますが」
「三年前のお前の実力ならな」
ベルゼルが不敵に笑うがそれでも外連味のない表情は敵の心もくすぐる。
俺が魔王討伐を成し遂げたのが三年前。その時に最後の砦として勇者の前に立ち塞がったのがこいつだった。
「それでは時間も惜しいので行かせていただきます。暗黒の棘!」
ベルゼルは両手を俺の方へ向け、そこから真っ黒な棘が無数に生成される。
ベルゼルの唱えた魔法は針のような細かい棘が無数に降り注ぐ闇属性のもので、一本はそれほどの威力ではないがこれが十本、百本と突き刺さると流石に鬱陶しくなってくる。
「しかもそれが百万本ともなるとな! 受けるだけでも精一杯だぞ」
俺はいつまでも生み出される棘を剣圧で振り落とす。盾ででも受けようものなら一瞬で穴だらけにされてしまう。
魔力量といい展開力といい、単純な攻撃魔法でさえこのレベルだ。全てを弾く事はできず、何本かは俺の着ている鎧に突き刺さる。
「お楽しみいただけたのであればワタクシも嬉しく思います。黒棘の引き裂き!」
「ぬっ!」
突き刺さった棘が破裂して鎧を引き裂く。
「大した威力じゃないか」
「ええ、それはもう。あなた様に倒されてからどのようにすれば一矢報いる事ができるか、そればかりを考えておりましたもので」
「努力が実ってよかったな」
「まったくです。少しは戦いらしくなりましたかな」
俺は返事代わりに剣を一閃する。剣圧でベルゼルの左腕が斬り落とされた。
「おや、狙いがずれましたか?」
ベルゼルが気合いを入れると斬られた腕が生えてきた。
「これくらいではワタクシの再生力で回復してしまいますよ」
「そうだな、それは昔と変わらない」
「ええ、能力としてはそうかもしれませんが、格段に回復速度が上がっていますし、何より……」
ベルゼルの腕が鞭のように伸びて俺を向かってきた。剣で弾こうとするが剣に巻きついて離れない。
「おっと、そんな使い方が」
ベルゼルの鞭になった腕が剣を取り上げる。
「はい、これで聖剣グラディエイトはいただきました」
「やってくれるな」
俺は素手のままベルゼルとの間合いを詰める。
「速っ!」
ベルゼルの喉元を左手で鷲づかみにしてそのまま押し込む。
「させません!」
ベルゼルが俺から奪った剣を鞭の手のまま逆手にして俺の背中めがけて突き刺そうとする。
「自らの武器で死になさい!」
「そう思うか?」
俺はベルゼルの首をつかんだまま背後に回って首を腕で締め上げる。右手でベルゼルの腰に手を回し身体を密着させた。
「このままだと自分に突き刺さるぞ」
「そうでしょうか?」
ベルゼルのかすかな笑い声が耳に入った。