俺からの指示と宝玉探し
結局は公爵一人、ひいては宝玉一個にこれだけの被害が発生してしまった。
ガンゾ辺境伯領の街は崩壊し、新たに街を興すにも生き残った人たちではどれだけの事ができるか。ボンゲ公国の中央都市も同様だ。都市としての被害は少ないかもしれないが、指導者の不在と人的被害が復興の妨げになる。
そんな中で俺が指示出しをする事が多くなり、ボンゲの連中もそれに従うようになってきた。
「ゼロさん、新しい救護所はここでいいかな?」
いかついおっさんがタオルで額の汗を拭きながら俺に尋ねてくる。
「そうだな……少し広さを確保したいから、地図で言うと……ここ、この辺り。瓦礫の撤去ができ次第設営にあたってくれ」
「判った、ありがとう!」
入れ違いにエプロン姿の女性が俺に質問をした。
「あの……水と食料、市民の団体が寄付をと……」
「それならあっちにいる連中に声をかけてくれ。炊き出しの支度をしているからな、配給所と調整をしてくれる」
「はいっ!」
瓦礫を片付けながらも、いろいろとやる事がある。
「ねえゼロ」
ルシルも手伝いの合間に俺の所へ来てくれた。
かなり忙しいようで、ルシルの顔にも汚れと疲れがこびりついている。
「なんでゼロがこんなに命令しなくちゃならないのかな」
「うーん、任せられる奴がいればそいつがやってくれればいいんだがな、見た所全体を把握して指示を出すとか、効率よく進められる奴とか、そんなのが見つからなくてさ」
「でもそれって街の人たちが自分たちでやればいい話じゃん」
「ああ。だから今、緊急事態の時だけ俺が手伝う、みたいな感じ?」
ルシルは呆れたようにため息をつく。
「ゼロはここの王様でもないし責任持てないでしょ?」
「そりゃそうだよ。いつかはいなくなる訳だし、俺に全部押しつけられても困る。でもさ……」
俺は炊き出しの煙を見て少し頬がゆるむ。
「少しでもなにかの役に立つなら、それもいいかなって。失敗したらしたで、後はみんなで頑張れって事でさ」
「うっわ~、無責任だなあ」
「そうか? まあそうかもな」
俺は笑いながら頭をかいていた。
そこへ遠くから一団がやってくるのが見える。
「仕掛け師さん!」
俺たちの所に来たのは戦闘で傷を負った連中。そいつらを率いている奴が俺を見つけて近寄ってきたのだ。
「ドブリシャス、か?」
「おう! 仕掛け師さんも無事だったかい!」
ドブリシャスは俺の肩を叩いて喜んでいる。
「この連中は?」
「ああ、こいつらは我と共に戦った地方部隊の生き残りよぉ! 中央の奴らからの攻撃をしのいで逃げ延びた奴らをかき集めてきたんだぜ!」
確かに見れば服装も装備もまちまちで統一感はない。
だが、一癖も二癖もあるような面構えだった。
「どうにか戦力を整えて、いざ中央都市に攻め入ろうと思ったところでさあ、もう片が付いているなんて事になっているとは思わなくてよ! わははは!」
「そ、そうか」
バシバシと俺の肩を叩くドブリシャス。なかなかにして痛い。
「でさ、聞いた所じゃガンゾの貴族さんもいるんだって?」
「ん、あ、ああ。アカシャならあっちにだな……」
俺は怪我人の手当てをしているアカシャの方を指さす。
「お、あれがガンゾ辺境伯の娘ですかい。お~い! ガンゾの姫さんよぉ~!」
ドブリシャスは大きく手を振ってアカシャに呼びかける。
それに気付いたアカシャは、今やっている仕事の手を止めて早足でこちらにやってきた。
「公衆の面前で無礼だぞ!」
いきなりアカシャはドブリシャスの顔に平手打ちを食らわせた。
「おぶぅ!」
勢いよく吹っ飛ばされるドブリシャス。
それを見てニヤニヤ笑っているボンゲ地方軍の兵士たち。
「ひ、ひひひ……」
頬を押さえながら恥ずかしそうに起き上がるドブリシャスを見て、見ていた連中からこらえきれない笑い声の大合唱になった。
「だーっはっはっは! ドブの旦那、ひでぇ顔!」
「情けねえったらありゃしねぇ! ぶわーっはっは!」
そこへ一人の少年がドブリシャスに肩を貸して立たせてくれる。
「その程度にしてあげてください。ドブリシャスも少し度が過ぎたと反省しているでしょうから」
少年はドブリシャスを立たせると、アカシャの前に行って手を差し出す。
「僕は公弟マイアミー。ガンゾ辺境伯の娘御とお見受けします」
アカシャは一瞬戸惑ったが、マイアミーの手を握る。
「本来であれば令嬢の挨拶をもって返答すべき所ですが、この場ではガンゾ辺境伯軍の総司令官としての立場でお話をさせていただきましょう」
「僕も、ボンゲ公国の公爵継承権者としてではなく、この場の最高責任者としてお相手いたします」
アカシャとマイアミーが協力して事に当たってくれそうだからな、こうなればようやく俺も後の事はこいつらに任せられるというものだ。
俺はアカシャとマイアミーの肩を叩く。
「よし、これならここは安心だな。ボンゲ公国は公弟も戻ってきたし、実行部隊もドブリシャスがいるからなんとかなるだろう。ガンゾ辺境伯領の事はアカシャたちがいるから、他国の侵攻さえなければ自分たちで復興できるよな?」
アカシャたちが返事をする間を与えず、俺は言葉を続ける。
「という訳で、一時の混乱は過ぎ去った。だから俺はちょっと出かけようと思っている」
「えっ!? 貴様、この惨状を見過ごすというのか!」
「いやいや、そこはそれ、任せられる奴がいるからこそだよアカシャ。お前たちがいるから俺は手を引ける」
「あ、えっと、いや、でもだな……」
「それに」
俺はアカシャとマイアミーの顔を寄せ、耳元で囁く。
「宝玉を探しに行こうと思っている。生活を豊かにする道具かもしれないが、それも使い方次第だ。それに数が圧倒的に足りないし、使い切ったらおしまいでは存分に使えない。となると安定的に利用できるようにするためにはどうするか。それを探りに行きたいんだ」
「宝玉……を」
「そうだ」
俺は二人から手を放す。既にルシルはまとめた荷物を持ってきてくれていた。
「そういう訳でな、お前たちの国の事はお前たちに任せる。俺たちは別の観点から手助けできるように動いてみるからさ」
俺は荷物をつかむとルシルの手を取って都市の壁へと向かう。
「じゃあ後は頼んだぞ!」
後ろの方でアカシャたちがなにかを言っていたように思えるが、俺たちは気にしないようにして駆け出していた。