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挟み撃ちではあるものの

 軍長を人質に取ってみたが、ボンゲ公国の兵たちは武器を捨てようとしない。それどころか都市の外縁で騒ぎが起き始めているというじゃないか。


「もう追いついてきたか、ガンゾ辺境伯軍!」


 アカシャたちが反撃の兵を率いてボンゲ公国へと攻め入ってきたのだ。


「私も、もう少し時間がかかると思ったんだけどなあ」

「そうだな、ああ言っておいてゆっくり来るのかと思ったけど……案外速かったな」

「だね~」


 俺とルシルがのんびり話をしていると、俺が捕まえていた軍長がジタバタと騒ぎ始める。


「ちょ、おま、ガンゾって、あの辺境の田舎者たちか!?」

「そうだぞ」

「だってあいつらは滅んでいるはず……公爵様自ら軍を率いて討伐しにいかれたのだぞ!」


 ギャアギャアとわめく軍長。


「でもなあ、その公爵が負けたんだ」

「そんな馬鹿なっ!」

「だがこれが現実だ」

「う……し、信じんぞ! 栄光あるボンゲ公国を治める公爵様、あの鉄針の力を持つ無敵の公爵様が!」


 気落ちしたかと思えばもう一度気持ちを奮い立たせようとする軍長だが、俺はいつまでもそれに付き合っていられない。


「その公爵も無敵じゃなかった。俺が倒したんだからな」

「にゃ、にゃにぃ!」

「それに俺がどれだけ強いのかはこの広場で戦っただけでも判るだろう? だから悪い事は言わない。俺に投降しろ」

「こ、降伏しろと言うのか……」

「そうだ」


 俺と軍長の会話は周りにいる兵士たちにも当然聞こえる。

 兵士たちの中には遠くで始まっている戦いの音に気を取られている奴も出始めた。


「ガンゾの連中が攻めてきているだって……!?」

「軍長を捕まえている奴もすごく強いぞ!? あんな化け物に……俺たちは……」

「軍長殿には悪いが軍長殿ごと奴を討ち取ってだな」

「ま、待てよ! あんな雷を出したり煙を出したりするような奇術師相手に……勝てるわけが」


 兵たちは状況が把握できなくて混乱する。それでも指示を出す者が俺に捕らえられているから、的確な動きができない。


「敵襲! 敵襲だぞ!」


 別の場所から騒ぎながらやってくる一群がいた。


「貴様らここでなにをしているんだ! 城門へ向かえっ! 敵襲だぞ!!」


 大声で兵たちに命令している奴は今まで見た中でも派手な装飾を施した鎧を着ている。


「ぬぅ、貴様らがこんな所でのろのろしておるから将軍の儂までも出ねばならんのだぞ! ここの軍長はなにをしておるっ!」

「そ、それが軍長殿はあの旅芸人に捕まってしまいまして……」

「なにぃ!?」


 将軍と言っていた奴が俺の方を見た。


「そこな軍長、貴様ぁ! ここでなにをしておるのだぁ!」

「ひきぃっ!」


 軍長はあからさまに怯えた表情になる。


「おい、そこな旅芸人とやら。今は敵の襲撃を打ち払わねばならん。情けないとはいえその軍長を解放するのだ!」


 おいおいなにを言っているんだこの将軍って奴は。


「それはできない相談だな」

「なんだと!?」

「だいたいこの軍長は俺の捕虜だ。ボンゲ公国軍を降伏させるためのな」

「ほほう、儂ら公国軍人を降伏させるだと!?」

「そうだ。そのためにこの軍長を捕まえたところだが……どうやらお前の方が偉そうだな」


 将軍はさげすんだ目で軍長を見ている。


「よかろう、軍長を殺せ」


 将軍の言葉に周りの兵たちも驚く。


「しょ、将軍……」

「それは……」


 兵たちの声には耳を貸さず、将軍は俺に向かって叫ぶ。


「軍長を殺せっ! さすれば人質はいなくなろう!」

「ひぃっ、将軍様! どうか、どうかお助けを!」

「虜囚の辱めを受けて、まだ命乞いかぁっ! 恥を知れいっ! さあ旅芸人、とっととその軍長を殺さんかぁっ!」


 なんとも情けない軍長だが、この将軍も非情だ。だいたい軍の兵は捨て駒だとでも言っているかのようで、そこが気にくわないんだよな。


「いいだろう、どうせこいつじゃあ人質には不足なのだろうからな」

「ひひぃっ!」


 俺は失禁して足下がびちゃびちゃになった軍長の首筋に手刀を当てる。


「はぎゅぅ!」


 白目を剥いて中途半端に舌を出した軍長は、そのまま仰向けに倒れていく。

 その地面に付くまでの一瞬。


「Sランクスキル発動、超加速走駆ランブースト! 一気に間合いを詰めるっ!」


 俺は倒れる軍長を放置して駆け出し、周りの連中が瞬きをするかしないかの内に将軍の背後を取る。


「なっ!」

「遅いっ!」


 俺の持っている剣が今度は将軍の首を狙った。


「さあ、降伏してもらおうか……将軍」


 今度は将軍が人質になる。周りの兵たちも目を丸くした。


「将軍様!」

「将軍様ぁ!」


 状況の変化に兵たちの身体は反応すらできていない。


「さあ将軍様よ、降伏するか、ここで名誉の戦死を遂げるか。どちらがお好みかな?」

「こ、降伏など……」

「降伏などしない、か?」

「い、命には代えられん。降伏する……」

「おっと」


 あっけないなこいつ。さんざっぱら偉そうな事を言っておいて、いざ自分の立場になればこれか。


「降伏する、します! だから命だけは、命だけはおたしゅけ~~~!」


 涙でぐしょぐしょになりながら将軍は降伏を宣言した。

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