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最高指揮官でもなければ無用だが

 まだ被害が少ないらしい。軍長という奴が出てきたものの、俺たちを甘く見ている構図は相変わらずだ。


「数を頼りに押し寄せたところで、俺たちをどうこうする事はできないぞ?」

「それがどれだけの大言壮語か、一人の力では限界があろう。いつまでも起きていられないのと同じように、いつまでも戦い続けてはいられないものだ」


 軍長は兵力をまとめると、小出しに俺たちへ向かわせてくる。

 もう治安維持部隊だけではなく、公国軍も繰り出してきている訳だ。


「そう言わず、どんどん来たらいいだろう。いくらでも相手になってやるぞ」

「その意気はたいしたものだ」


 軍長は俺の挑発には乗らない。

 俺は兵たちを無力化するが、それでも多少の傷を負わせるだけで命は取っていない。だからボンゲ公国の兵たちは入れ替わり立ち替わり、怪我を負った者が交代して無傷の者が突出してくる。


「ねえゼロ、いつまで続くのかなあ」


 ルシルは電撃で対応するが、その勢いが目に見えて遅くなっていく。


「ルシル、もしかして……」

「あ、判っちゃった?」


 俺の危惧していた事が現実になってきているようだ。

 その反応を見てか、軍長が調子に乗ってくる。


「どうした、疲労が溜まってきて動きに精彩がなくなっているようだがぁ?」


 軍長は腕を組んで偉そうにほざいていた。


「あー、うん、そう言うのじゃなくてさ」


 俺はちまちまと襲ってくる公国兵を手玉に取りながら、俺たちの気持ちを教えてやる。


「疲れたとかじゃなくてさ、面倒なんだよね。まとめて相手にした方が楽だからさ」

「ほ、ほう……」


 軍長との距離はちょっとあるが、それでも奴の顔がヒクついているのが見えた。


「だ、だがその面倒さも、長時間続けていれば……」


 しまった。こいつらの目的は判らないが、それでも時間の引き延ばしは俺の望む事ではない。


「ならやはり」


 俺は手前の兵を蹴飛ばすと、軍長までの道のりを計算する。


「いいかルシル」

「いいよ……」

「よしっ、Rランクスキル発動、紫煙の帳(フュームカーテン)! 覆い尽くせ、蒸気の幕よっ!」


 俺のスキルが発動し、俺たちを中心に煙がもうもうと立ち籠めた。

 この一瞬でルシルは隠密入影術(ハイドインシャドウ)を実行する。瓦礫に紛れ、敵兵に紛れ、建物の影に隠れる。

 もうこれで、俺から見てもルシルの姿はどこにも見えなくなった。


「Sランクスキル発動、超加速走駆ランブースト! 駆け抜けろ、敵の首魁の元へっ!」


 俺は更にスキルを発動させて煙で視界をさえぎられている連中の合間を駆け抜け、軍長の目の前にまで到着する。


「ほらな」


 俺は軍長の襟首をつかんでその首元に剣の刃を当てた。


「こうすればすぐにでも戦闘は終わるだろ?」

「ぐっ……」

「それとも、自分の命は犠牲にしてでも俺を討ち取るように命令するか?」

「ぬぬぬ……」


 煙が晴れてくると同時に、周囲にいた兵たちも状況を理解し始める。


「ぐ、軍長……」

「貴様、卑怯だぞっ!」


 口々にわめく兵たち。


「そうは言ってもな、俺も早く事を片付けたいのでね」

「なんだとっ! 我らが軍長殿は貴様のような脅しには屈せぬぞ!」

「おやおや、軍長さんは兵たちからの信頼が厚いようで」


 俺は軍長の首に少しだけ切り傷を付ける。


「いっ!」

「これくらいで痛がっていては前線の兵士たちに示しが付きませんぞ、軍長さん」

「ぐ……」

「そうそう。首を刎ねられたら痛いなんて感じる暇もないからな」

「ひいっ……」


 軍長は既に身体に力が入らない様子で、俺が支えないとこのまま尻餅をついてしまいそうだ。

 その様子を見ても、兵たちはかろうじて軍長が自ら立っているようには思えるのだろうな。


「軍長殿! 我らにお命じ下さいっ! 即刻軍長殿ごとこやつの首を落とせと!」

「ま、待てっ……」


 兵たちはいきり立つが、当の軍長はそうでもないらしい。


「ほら軍長さん、兵たちもああ言っているが、どうなのかな? 栄誉ある公国軍人は敵に降ったりしないとでも言うのかな」

「ぐ……」

「それとも軍長さんは過大評価をされるのが苦手なのかな」

「ぬ、ぬぬぬ……」


 軍長自身には抵抗する気力はなさそうだが。ここは当て身でもして意識を失わせるか。現場の指揮官くらいでは相手をしていても仕方がないからな。


「おや? なんだが遠くも騒がしくなってきているようだが……」


 都市から更に遠くで騒ぎでも起きているのだろう。大規模な土煙が立っている。


「ゼロ!」

「おわっ!!」


 ルシルが突然俺の隣に現れた。


「どうしたルシル、急に出てきて」

「それがねゼロ、間に合わなかったみたい……」

「間に合わなかった? まさか……」


 俺の問いにルシルは真剣な顔でうなずく。

 そうか、思ったよりも速かったという事か。少しゆっくりやり過ぎたかな。

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