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治安維持部隊

 ルシルの平手打ちは大きい音を立てて周囲の目を集める。その効果は抜群だ。


「でも、これだけの都市に行けばなんとか……」


 俺はあえて無力を装って情けない声で応える。

 見ている連中からしたら、気の強い女の子が情けない男に対して怒っているように見えるだろう。


「もう一度言うけど、市民と対等にできるのはそれだけお金か商品を持っている、それだけの価値がある人だけなの! あんたみたいに貧乏人なんかに付いてくるんじゃなかった!」

「そ……そんな……」


 俺たちのやりとりで、周りの連中にも判っただろう。

 俺たちは市民になりたくてこの都市に来た。だがそれに値する金を持っていない。その末の痴話ゲンカだろうと。


 案の定、俺たちの痴態を見てひそひそ話を始める連中が出始めた。

 そう、こいつらは先祖代々受け継いだか、それとも市民になれるだけの額を支払って市民になれた奴。

 だから俺たちが演じているように、金も無く市民に憧れる奴を見て優越感に浸れるのだ。


「もう我慢できない! Nランクスキル雷の矢(ライトニングアロー)!」


 ルシルは指から小さな電撃を放って俺に向ける。


「ひいっ!」


 俺は情けない声を上げて頭を抱えながらうずくまると、俺の頭上を越えて電撃が街路樹へ当たった。

 パリッと音がして電撃が弾ける。周りの連中は突然の出来事に驚いて騒ぎ出した。


「なんだこいつ、雷を落としたぞ!」

「いや俺は見た! あの女の子がビリッと出したんだ!」

「そんな馬鹿な、だって雷だぞ!?」


 よし、いい感じに騒ぎが大きくなってきたぞ。

 それにしてもルシルの雷の矢(ライトニングアロー)は俺の頭に直撃するところだったじゃないか。いや危ない危ない。もし当たったら眉毛が吹っ飛ばされて、人相が悪くなってしまうところだった。


「さて、と」


 俺はうずくまりながら周りの様子をうかがう。


「なにを避けてんのよっ!」


 ルシルは立て続けに電撃を放つ。当然ながら人に当てたりはしない。地面に弾かれたり、壁を焦がしたりしている程度だ。これも予定通り。


「うわっ!」

「なんだこの娘っ!」


 大騒ぎになっているのは市民たちだ。

 そしてここまで大騒ぎになってしまえば……。


「なにをしておるかぁっ!」


 来た来た。威圧的な怒声。


「天下の往来で騒ぎ立ておって! 貴様らなにをしておるかぁっ!」


 登場してきたのはゴテゴテと棘の付いた鎧を着ている兵たち。手には長いハルバードを持っている。槍に斧部分が付いたような武器だ。


「出たぞ、治安維持部隊……」

「私たちも巻き込まれたらかなわないわ……」

「奴ら乱暴だからな……」


 市民たちは口々に批判的な言葉を吐いてこの場から離れていく。


「ピーチクパーチクうるせえぞ市民様どもよぅ! この治安維持部隊の邪魔をすると、騒乱罪幇助でとっ捕まえるぞ!」


 やかましい兵士がハルバードで地面を突くと、甲高い金属音が辺りに響いた。

 それだけでも市民たちには十分恐怖に値したようだ。あっという間に見える所には市民たちの姿はなくなった。


「それでぇ、貴様らはなんの痴話ゲンカなんだ? 神聖なる王都でなぁにを騒いでおるかぁ!!」


 騒いでいる奴だけ、兜に房飾りが付いている所を見ると、位が高い奴なのだろう。

 そいつがハルバードの先を俺たちに向ける。


「い、いや、別に俺たちは騒ぎを起こそうなんて……」


 思っていてこれなんだがな。


「えぇい! 口答えは無用っ! それっ、詰め所へ引っ立てろっ! 騒乱罪で逮捕だっ!」


 治安維持部隊の連中がハルバードを構えて俺たちにゆっくりと向かってくる。


「ゼロ」

「そうだな、きっかけとしては十分か。相手は五人。まずはそこから」


 俺たちが会話をしている姿を見て違和感を覚えたのだろうか、不思議そうな顔で隊長らしい奴がまた吠えた。


「なんだ貴様ら、その余裕ぶりは!? それとも抵抗を諦め……」


 隊長の言葉はそこで途切れ、続いて兜だけが地面に落ちる音が響く。


「あ、あわわ……」


 兜を吹き飛ばされて青ざめた顔で隊長は俺を見る。


「折角来たんだ、ちょっと付き合ってもらうぞ」


 俺は抜き払った剣を構え直すと、ハルバードの穂先に軽く刃を当てた。

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