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逆撃阻止を狙って

 ガンゾ辺境伯領の民たちはあちらこちらに避難しているらしい。一番大きな避難場所が、元々モンジャールの街があった土地の地下に掘られた通路。もはや巨大洞窟と言ってもいいくらいの物らしいが、地上に池を作ったりしてボンゲ公爵の攻撃からある程度は守れるようにしたつもりだ。


「だがな、守ってばかりもいられない」

「当然だ! 自分らがこれだけの被害を受けて、そのままでいられようか! ボンゲ公国にもこの屈辱を味会わせてやらねば!」

「だがアカシャ、復讐はなにも生まないぞ。それよりもどうにかあの公爵をやっつける方法をだな」

「いや、自分らはこれよりボンゲ公国へ攻め入る! 今まで敵から守るだけの戦いだったが、こうなれば国を捨てる覚悟で敵に挑んでやる!」


 そりゃあまあ城も街もなくなって自暴自棄になる気持ちは判らんでもないが、だからといって公爵のやったツケを敵国の民にぶつけるのは気が進まない。


「そうか、まあ俺からしたらどちらの国の事も他人事だからな……。自国民を殺された恨み、そうそう簡単に晴れるとは思わないが」


 頭に血が上っているアカシャを俺が無理に止める事は……。


「ゼロ、このままだとアカシャさんたち本当にボンゲ公国に攻撃しちゃうかもよ」

「そうだなあ……」


 義理も責任もないが、なんとなく、そう、なんとなくだ。俺はこのまま相手の国を蹂躙する事は気に入らない。

 なぜだろうか……。


「そうか……」


 俺はポカンとした顔で空を見上げていた。


「なに? どうしたのゼロ」

「あ、ああ。今更だけど、俺は敵意を持った奴は倒してもいいと思っていた」

「そうだね、そんな気がする」


 ルシルもそこは肯定してくれる。


「それでな、歯向かってこない奴を殺しに行くというのが俺は嫌だったんだ」

「へぇ……無抵抗の相手を殺すとか、そういうのはやりたくないんだ?」

「そうだなあ、そんな所かもしれない。戦っていた奴が戦意喪失して逃げようとする所を討ち取るのは別に気にしないんだけどなあ。相手が非戦闘員だったり、守ろうとする戦いをしようとしていた相手だと……」

「今はそういう相手と戦いたくないって事?」


 俺はルシルの言葉にうなずく。


「だからさ」


 アカシャの方へと向き合って、アカシャの目を真っ直ぐに見つめた。


「なっ、きゅ、きゅきゅ急になんだっ!?」

「なあアカシャ、俺に少し時間をくれないか。元々俺はボンゲ公国から休戦協定を結ぶ使者としてガンゾ辺境伯領に来たんだ」

「そ、それがなんだ……」


 しどろもどろになるが俺と目をそらさないのは大した度胸だと思う。


「俺がボンゲ公国へ行って戦争を終結させる。もう今まで争っていた事をこれで終わりにするというのはどうだ」


 俺の発言にアカシャも、そしてその周りにいるガンゾ辺境伯領の兵たちも驚きの目で見る。

 黙っていられなくなった兵たちが騒ぎ出す。


「そんな……できる訳がない!」

「馬鹿も休み休み言えっ! 同胞をこれだけ殺されて!」


 わめき散らす兵たちをアカシャが右手を横に広げて制止する。


「アカシャ様……」

「姫様……」


 兵士たちのざわめきが小さくなっていく。


「お前たちの気持ちは自分も痛い程判る。自分たちは装備を調えて出陣する。これは決定した事だ」

「では姫様!」


 アカシャの言葉が兵たちを熱狂させた。

 このままでは、治まらないだろう。


「貴様!」

「なんだアカシャ」

「自分たちが行軍する間だけ待ってやろう」

「それは……」


 アカシャは鋭い目つきで俺をにらむ。


「俺が先にボンゲ公国へ行って降伏させればよし、お前たちの軍が追いつけば戦闘が開始されると、そう言う事だな」

「ああ。自分たちも軍装を揃えて軍の再編成を要する。だがそれ程時間はかからないと心得よ」


 なるほどな。我慢できたとしてもそれだけの時間的猶予か。


「いいだろう。お前たちの行軍がただの遠足で終わるようにしてみせるさ」


 俺は振り返ると片手を上げてヒラヒラとさせる。


「じゃあ先に行っているぞ」


 俺とルシル、たった二人でボンゲ公国へと向かう。

 降伏させるため、殺させないために。

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