池の下の都市
別段世界が異なるという訳でもない。スキルや能力がまったくない訳ではないのだ。
「荒野の広がる辺境で水を大量に使えるか。なるほど、水龍の宝玉と言ったかな。それはこの地に必須の物だろう」
「ああ。だから自分もこれは代々家宝として扱われていて、自分の成人の儀に父上から賜った物だ」
「成人の儀?」
確かに大人っぽいとは思ったが、それでも成人していたとすると……。
「なんだ?」
「い、いや、なんでもない」
俺よりも年上だったのか。
「それはそれとしてだな、ボンゲ公爵はどうにかしなくてはならないと思うのだが」
「当然だ! ガンゾ辺境伯領をここまで荒らしたのだからな! 家はともかく失われた命の償いをさせてやらねば気が済まん!」
いきり立つアカシャ。その気持ちも判らんでもない。俺だって自分の国民がこのような事になったらと思うと胸が苦しくなる。
「だが、どこへ消えたか。ガンゾ辺境伯領としてはまず防備を固める事が先決ではあるが、だが……」
考えてみるとどうやってあの針の雨をしのぐというのだ。宝玉を持っていると言っても水を作り出すくらいで防壁としては心もとない。
「いや……そうだな。アカシャ、地下の通路はどう広がっている?」
「抜け道の事か? それであれば……」
俺はアカシャから地下の様子を聞いて考えを伝えてみる。
「それは……できなくはないと思う。通路は地下深くまで掘り進んでいるし、もちろん地下水対策として水はけもいいように作っているが……そんな事ができるのか?」
「まあそこは俺も力を貸そう」
そうして俺は土木工事に着手した。
工事と言っても、岩の板壁のスキルを使って地下道の上を覆い、大きな器を作る。
そこにアカシャが水龍の宝玉を使って器の中に水を張っていく。
「街を飲み込む程の大きな池が……」
アカシャは自分の作った池に驚きを隠せなかった。確かに街程の大きさの池。その周囲は俺が作った岩の壁が敷き詰められている。
もちろん水が漏れないようにしているから地下道にまで水は入り込まないし、入ったとしても地下道に作ってある排水路を使えば水浸しになる事はない。
「これだけ水の層があれば、針の雨が降ってきたとしても地の底にまでは届かないし、毒も拡散されるだろう。まあ、飲み水には使えなくなってしまうがな」
「そうだな、風呂にも使えないだろうな」
「残念そうな顔をするなよアカシャ。風呂は風呂で別の水を使えばいいだろう?」
「あ、うん……。そうだな。そうだったらよかったんだが……」
アカシャが見せてくれた宝玉は、中心に大きなヒビが入っていた。
「これは……もしかして」
「いや、もう大分前から兆候はあったのだ。街を守るためならば水龍の宝玉も役目を全うしたと言えるだろうさ」
「アカシャ……」
少し寂しそうに、はにかんだ笑みを見せるアカシャ。
うーん、これだったらルシルに水を作ってもらえばよかったかな……。今更言ったところで、もう仕方がないけど。
「ま、これからの事はどうにかするさ!」
アカシャは気丈に俺の肩を叩いてくれた。
「励ますのは俺の役目かと思ったが」
「そうか? 貴様はよくやってくれているではないか。なんとなく、だな、貴様が気落ちしていたように見えたのでな」
「そうか……。なんか、済まんな」
「ははっ、貴様がしおらしいと気持ちが悪いな」
「うるせえなあ」
俺は照れ隠しで少しきつく当たってしまったかもしれない。
でも、アカシャは気にしないでいてくれる。見た所、俺にはそう思えた。