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宝玉の使い手

 ボンゲ公爵は空の彼方に消えた。隠密入影術(ハイドインシャドウ)を使っているだろうから、実際にいなくなったかどうかは判らないが、その後の脅威は発生していない。


「ゼロ、もう大丈夫かな……」


 ルシルが心配そうに俺を見る。


「大丈夫だろう。俺たちもあれから攻撃を受けていないし、ボンゲの連中が捕らえられても助けようとしない。きっともうこの場にはいないさ」


 俺だって確証はない。それに、今ここにいなかったのならどこに行ったというのだ。


「ともかく戦いは終わった、だろう……。ボンゲ軍の生き残りも抵抗する意思はないようだし、ガンゾの住民も戻ってきているようだしな」

「そう、みたいね」


 戦闘の音が止めば、非戦闘員も姿を現す。

 街の至る所で涙と悲しみの連鎖が生まれているが、それでもまだ死神の手が届いていないからこそできる事。

 涙を流し尽くした後には、前に進む一歩が踏み出せる事だろう。


「アカシャさん、傷はどうかな」

「あいつの事だから平気だろ、きっとな」


 俺たちがそんな話をしていたからだろうか。


「聞き捨てならんぞ貴様っ!!」


 威勢のいい声が崩れた家の向こうから聞こえた。


「もう立って歩けるのか?」

「もちろんだとも。貴様に気を使われるなどと、背筋が凍る思いだぞ」

「なんでそう突っかかってくるかなあ」


 相変わらず俺に対して手厳しい物言いをする奴だ。


「アカシャさん、もう傷はいいの?」

「あ、ああ。お嬢さんのお陰でね、自分もこうしていられるのはお嬢さんの献身があったればこそ」

「そんな、元気になったんならよかったよ」

「そうかぁ! そう言ってくれるなんてな! よし、風呂に入ろう! 一緒に風呂に入ろう!!」


 アカシャは大喜びでルシルの手を取る。


「だがなあ、風呂なんてあるのか? この街の惨状からすると……」

「あ、うむ。今はない! そんな事貴様に言われるでもないわ! だがな、高級士官用の軍備の中には風呂もあるのでな、どこぞの前線からでも持ってくればすぐにでも用意できよう!」

「そんな事で前線の物資を勝手に使うなよ」

「ぐぬ……。では致し方ない。街を復興させたあかつきには大きな共同風呂を作るのでな、それに皆で入ろうではないか!」

「ふっ」


 俺は思わず吹き出してしまった。


「大きく出たなアカシャ」

「そうか? 疲れを癒やすには風呂が一番だぞ!」

「だったら前線の兵士たちにも使わせてやれよ。お前だけの独占じゃなくてさ」

「お?」


 アカシャは不思議そうに驚いたかと思うと、ニヤニヤとしながら俺の顔を覗き込んでくる。


「知らなかったか?」

「なにがだ? 高級士官用の天幕に一般兵は入れないのだろう?」

「それはそうだが、風呂は普段他の天幕に移動させて皆で使っているのだよ」

「え、そうなのか?」


 アカシャはうんうんとうなずく。


「ま、まあだからなんだという訳ではないが、ガンゾ辺境伯領は辺境ゆえ水資源にも乏しいが、それだからこそ水を大量に使う風呂が贅沢なのだよ」

「そりゃあ贅沢だろうな。でもその水はどうやって賄っているんだ?」

「あ……」


 なにか失言したのだろう。アカシャは視線を逸らす。

 その様子を見てルシルが手にしている銀枝の杖を見せた。


「アカシャさん、もしかしてこういう宝玉みたいな物、ある?」

「あっ! 水龍の宝玉!! どうしてここに!」


 アカシャの言葉で納得できたぞ。


「水龍の宝玉か、なるほどな。この地にも魔力を帯びた宝玉があったという事か。それも水を生み出す宝玉が」

「う、うむ。自分とした事が……」

「まあいいじゃないか。人はともかく魔法の道具があるという事は、スキルだって不思議でもなんでもない、だろ?」

「う、うむ……」


 そう考えると宝玉なり魔力を秘めた道具なりで生活を豊かにしているのはあるのだろうが、だとすればボンゲ公爵のあの能力は……。

 宝玉の力なのか、奴のスキルなのか、それとも……。


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