棘の公爵
ガンゾ辺境伯軍の兵士たちが拠点を確保する。既に戦闘は終わっていて、残党狩りの様相を呈していた。
「アカシャ、他の兵たちが救護所を用意してくれたぞ。そっちに移るか」
「ああ、済まないな」
アカシャは担架に乗せられてぐったりと横たわる。
「他の兵や辺境伯はどうなった?」
アカシャの単価をつかんでいる兵に聞いてみた。
「はい、辺境伯様は別の地下道を使われまして、民たちと避難所へと向かわれています。アカシャ様と我々はこちらの地下道から敵兵を混乱させるために別働隊を率いて出てきた次第でして」
「そうか。そちらの方も無事に落ち延びてくれればいいが。ひとまずアカシャの毒と傷はどうにかした所だが、救護所で休ませてやってくれ」
俺は他の兵たちにアカシャを任せてボンゲ公爵の所へと向かう。
「下がれ下郎が!」
俺の姿を認めると公爵がわめいてきた。手足を縛られてガンゾ兵に抱えられている状態だ。
「予をどうするつもりか!」
「どうするもなにも、ボンゲ公国に無条件降伏を求めるだけだ」
「なっ、無条件……」
「それでなければ体制の交代、だな」
「交代……、まさかマイマミーが予を……」
「さあな。それは国の中でやってくれればいいさ」
「馬鹿な……」
がっくりとうなだれる公爵。
「連れて行け」
俺は公爵を抱えていた兵たちに指示をする。まあ、俺としたら命令する権利はないのだろうが。
「ふ……」
公爵が息を漏らす。
「ふざけるなぁっ! 予が、予が大陸を統べるのだ! メイスチン王国を再興し更に強大な国家を打ち立てるのだっ! それをこんな所で!!」
「そうわめいたところで捕虜となっている身だぞ。次に行ける場所は玉座ではなく処刑台になるだろうな」
「馬鹿なっ! ありえんっ!! この特殊な力を持つ予こそが王国再興を成し遂げるのだっ! 能力を持っておらぬ者たちを従える必要があるのだっ!」
負け犬の遠吠えか。公爵は髪を振り乱しながら大声で自分の歪んだ考えを叫んでいた。
「別段スキルは特殊な能力でもないぞ。俺たちの国には使えて当然という感じだからな」
「な……」
俺は指先から小さな炎を出し、ルシルが両手から小さな電撃を放つ。
「そ、そんな……馬鹿な……」
「確かにこの地域ではあまりスキルを使える者がいないようだが、だからといってスキルに頼った統治はできんだろう」
「ぬ……」
どうやらこれで公爵の棘もへし折れただろうかな。
「く、ぬくく……。であれば、であればだ……」
公爵の身体にどす黒い魔力が宿り始める。
「ゼロ、これ……危ないんじゃ」
「ああ、お前たちここから離れろ、後は俺が連れて行く」
そう言った時だった。
「ふざけ、ふざけるな! 予が誰よりも強く誰よりも生き残る! 棘刺雨!」
ボンゲ公爵が空を見上げてスキルを発動させる。
上空から無数の針が降り注ぐ。
「ぎゃっ!!」
「ぐわっ!」
公爵の脇にいた兵たちに大量の針が雨のように降ってきた。あっという間にグズグズの肉片に変わってしまう。
そしてその雨の中心にいた公爵も、手足を拘束していた縄をその手足ごと針の雨で破砕したのだった。
「ぐっ、ぐっははは!」
公爵はゆっくりと起き上がる。
砕けた手足に変わって大きな棘が腕や脚から生えていた。
それどころか全身からも棘が飛び出している。棘に覆われた棘人間だ。
「ほほう、よき力ぞ! 予の力がみなぎってくるわ!」
さっきとは打って変わって上機嫌に笑う。
「だがこの場は見逃してやろう! 予の力で王となるためには必要な事が見えてきたのでのう!」
ボンゲ公爵は高笑いをしながら一気に上空へと跳んだ。そして雲に届くかと思われた程の高さになってその姿を消した。