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戦闘停止命令から始まる事

 俺の見覚えのある顔。それが華美な兜の下から出てきた。


「ねえゼロ、この人……」

「多分、こいつが公爵だ」

「この人が……」


 公弟をそのまま大人にしたような、そんな風貌。口ひげを蓄えているから余計大人びて見えるが、まだ壮年というには早いくらいの顔立ちだ。


「公爵自ら前線に出てきているとはな。流石にそこまでは俺も期待していなかったが」

「予がボンゲ公爵であるとなぜ判った」

「公の弟君に先日会ったばかりなのでな。大事に守られているから公国にとって重要な人物かとは思ったが」

「くっ……」


 ボンゲ公爵は俺と視線を合わせないようにしていた。居心地が悪いのだろうな。判らんでもないが。


「さてと、お前がボンゲ公爵というのが判ったなら、もう戦は終わりだな」


 俺は公爵の腕をつかむとそのまま勢いで引き上げる。


「いたっ、ま、待ってくれ」

「いい年こいた奴がなにを言っているんだ。さっさと立てよ」

「わ、判った……」


 ボンゲ公爵を捕まえているから他の兵たちは手出しができない。剣を構えてはいるが俺に斬りかかろうというような奴はいなかった。


「さあ公爵様よ、戦闘停止命令を出してもらおうか」

「う、うう……」


 うなだれたままの公爵をどうにか立たせて兵たちに見えるようにする。

 周りの兵たちは戦闘態勢を解かないまま俺たちを囲むようにして間合いを空けた。


「貴様っ! 公爵様を放せっ!」


 兵の中でも年配の奴が吠える。


「そういう訳にはいかないな」


 俺は吠えているおっさんを放っておいて、改めて公爵に戦闘停止命令を出させようと左手のひらを公爵の顔に近付けた。


「Sランクスキル発動、閃光の浮遊球(フローティングライト)だ。見れば判るよな?」


 公爵の目の前に光の球が浮かぶ。


「ひぃっ!」


 公爵は力が抜けて崩れ落ちそうになるが、俺が公爵の腕をしっかりつかんでいるから倒れないようになっている。


「判っているだろうが俺が牙を剥けばこれくらいじゃあ済まないぞ?」


 俺が公爵に話しかけるも、兵のおっさんが割り込んできた。


「そんなこけおどしに乗ると思ったら大間違いだぞ! その程度の手妻で我らが、そして公爵様が退かれるとでも思ってか!」

「おっさん、だったらあんたらの中央軍はどこ行ったんだ? あっちの遠くで大地の裂け目に飲み込まれて壊滅しているが、それを俺がやったと言ったら?」

「ばっ、馬鹿なっ! 主軍二万は到着が遅れているだけだ! 貴様のはったりなどには」

「はったりじゃなかったら?」

「そ、そんな、いや馬鹿な……」


 おっさんの手が震えて剣もまともに持てない状態のようだ。


「判ったのなら、さあ、あんたからも主に停戦の下知をもらえるよう言ってくれよ」

「くっ……」


 信じたかどうかはともかく、おっさんは黙ってしまった。これならば。


「では公爵様、戦闘停止命令を」

「む……事こうなってしまっては致し方なし。よかろう、ボンゲ公国公爵の命により、この戦は手を引……」


 公爵は最後まで言葉を発する事はできなかった。

 言葉の代わりに血の泡を噴く。


「なにっ!」

「ゼロ、後背からの影撃(バックスタブ)だよ!」


 公爵の胸には背後から刺さった矢が貫通して飛び出していた。背後から気配を消して攻撃する後背からの影撃(バックスタブ)。俺に殺意が向けられていなかったから気が付かなかったか。


「ごふっ、ごぶ……」


 俺は公爵の胸に手を当てて魔力を集める。


「Sランクスキル発動、重篤治癒グレートヒーリング! 傷を、傷だけでもっ!」


 俺の持てる最上級の回復スキル。矢はそのままだが致命的な傷はふさぐ事ができるはず。

 公爵はぐったりとして俺の腕に寄りかかる。既に目を閉じて意識が無くなったようだ。


「ルシル、治癒を頼めるか!」

「うん、大丈夫だけど……」


 俺は公爵を地面へ寝かせると辺りの気配を探る。


「暗殺者……もう逃げたのか……」


 一瞬の空白の後、おっさんたちボンゲ公国の兵士たちがゆっくりと近寄ってきた。


「こ、公爵様……」


 おっさん兵は剣を取り落として膝を付いてしまう。

 他の兵たちも動揺は隠せない。


 さてと、どうしたものか。

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