どこかで見た顔
俺とルシルは教会の鐘楼から飛び降りた。
「なんだ!? 人が落ちてくるぞ!!」
敵兵が騒いでいるのが判る。ざっと見た程度だが下には敵兵がたくさんいて、俺たちを見ていた。
「ゼロ~、兵が虫みたいにごちょごちょしてるよ~」
「気にしないでスキルを発動させるぞ! SSランクスキル発動、豪炎の爆撃! 圧力を下に噴き出せ!」
ルシルも俺に続いて海神の奔流を発動させて勢いを殺す。
俺たちが落ちてくる衝撃に加え、スキルの圧力をまともに受けた敵兵は、俺の爆風に押し潰され、ルシルの激流に砕かれていった。
俺たちはそうしながら衝撃を緩和させて着地する。その時にはもう動いている敵兵はいなかった。
「あっちだったな」
これから進もうとする方向を見る。
「うん」
「奴らが陣を移動させる前に行かないとな」
「だね」
俺たちは上から見た時の記憶を頼りに敵兵がうろつく中を突き進んでいく。抵抗は散発的だが、勝ち戦の勢いだろうか、寄ってくるボンゲ公国軍の兵士は調子に乗って俺たちに戦いを挑んでくる。
当然、一蹴して終わるのだが。
「だんだんと敵兵も増えてきているように思えるな」
「本陣が近いって事かもね」
「そうだと早く戦いが終わらせられる」
そんな事を話している俺たちの前に、大きな建物が立ち塞がる。どこぞの大商人が住むような豪邸だったのだろうが、略奪されたのだろうな、既に荒らされた後だった。
「建物があるよ。結構大きな」
「敷地も広そうだな」
「だね~。上からは道まで見ていなかったけど……どうする、迂回する?」
「うーん、俺も覚えていないかならなあ。悪いがここは直進しよう」
「えっ?」
俺は建物の壁に手を当てると、精神を集中させた。
「SSランクスキル発動、豪炎の爆撃! 壁ごと吹き飛ばせ!」
俺の手から明るい炎が生まれ、壁が爆発を起こす。爆炎が治まると壁に大きな穴が空いていた。
俺がさっき鐘楼から飛び降りた時に使った爆炎のスキルだが、どちらかというとこっちの方が使い方としては普通のものになるのだろうな。
「結局ゼロも街を壊すんじゃん」
「全てを更地にする訳じゃないんだし、もしこの建物に誰かが隠れていてもだな、壁なら大丈夫……だろ?」
「知~らない」
ルシルは俺の開けた穴を通って建物を通過する。
「やれやれ……」
俺はその後も同じように直進して、建物の壁を壊し、小屋を吹き飛ばして突き進んでいく。
その間にも敵兵を倒しながら。
「なあルシル」
「なに?」
「なんとなくだが、敵兵の質が変わってきていないか?」
「え、あ。ほんとだ!」
進んで行くにつれて、それまでは戦いで汚れていた奴がうろついていたくらいだが、今目の前にいる連中は、すす汚れはないし構えた剣も綺麗だった。
「ゼロ、なんだか着飾った……偉そうな装備だよこいつら」
「だな。剣に血がついていないし返り血も浴びた様子はない。こいつら、まだ戦闘をしていないようだな。これだけの市街戦を繰り広げながら……」
そうやって次の壁を突破した時だ。
目の前には兵士たちの集団が。
「本陣に来たって事か」
「ようやくね」
目の前の連中は戦場には場違いな程、きらびやかな衣装に身を包んでいた。
兜には羽飾りが付いているし、鎧も模様や飾りが施されている。一般兵の板金鎧とは大違いだ。
「こいつ強いぞ! 守備陣形っ!」
兵士たちの中から指示が出て、それに従って敵兵はもっていた盾を前に並べる。
その身体が隠れるくらいの大きさの盾、タワーシールドだ。それが並んで構えれば盾の壁ができあがる。
だが、俺はため息交じりで忠告してやった。
「おいおい、人が持っている盾の壁で、建物の壁をぶち抜いてきた俺に対抗できると思っているのか?」
「うう、うるさいっ! お前をこれ以上行かせる訳にはいかんのだっ!」
「それはどうも。Sランクスキル発動、剣撃波! 俺の衝撃波を受けきれるかな!?」
俺が剣を抜き払って一閃すると、そこから生まれた衝撃波が盾の壁を襲う。
「ぐわっ!」
「ぎゃぁっ!」
盾どころか兵士ごと吹き飛ばしてしまった。
「ぐぐ……」
「化け物め……怪しげな術を使いおって……」
やっぱりこいつら、スキルや魔力のなんたるかを知らないみたいだな。
そんな倒れた奴らの奥から、またひときわ豪華な金色の全身鎧の戦士が現れた。
「よい、予が相手をしよう」
金色に輝く鎧の胸部分には紋章の浮き彫りが施されていて、兜には青い房飾りが付いている。
「俺は一対一でなくとも文句は言わないが。一騎打ちでもしにきたか?」
「そんな所だ」
金色の戦士はそう言うと剣を抜いた。
剣もまた、実戦には向かないようなゴテゴテと飾りの付いた物だったが、それでも真剣勝負をしたいらしい。
「いいだろう。Rランクスキル発動、超加速走駆! この踏み込み、どうする!?」
俺は瞬間的に加速して黄金戦士の胸元に飛び込む。
「これでっ!」
俺が剣を横に払う。相手の首を狙った一撃だ。
「ぐっ!」
黄金戦士がうめく。
だが、俺の剣は奴の兜を飛ばすだけに留まってしまった。
俺は首を狙っていたが、従卒だろうか、横っ飛びに庇う奴がいて狙いがずれたみたいだ。
「やってくれたな……」
兜を飛ばされた男は尻餅をつきつつ視線を俺に投げる。
「ん?」
兜の下から出てきた顔は、どこかで見た顔だった。
「お前……」
考えてみれば当然かもしれないが……まさかこんな所にいるとは思わなかったぞ。