現場の頂点を探す
俺たちはボンゲ公国軍を各個撃破していく。街の中では一人一人潰していくしかないのだ。
「かなりの人数、城に逃げ込んだんじゃないかな」
ルシルがスキルを発動させながらボンゲ軍を撃退していく。俺も近くの敵には剣を振るい、距離のある奴には衝撃波で斬り割いていった。
「ゼロ~、きりがないよ~」
ルシルは簡単に敵をあしらっているものの、とにかく数が多い。それをちまちまと相手しているのだから、愚痴の一つも言いたくなる気持ちは判る。
「やっぱり街ごと爆発させちゃおうよ。そっちの方が手っ取り早いって」
「いやまてルシル。中央軍は倒したというのにこいつらは攻勢を止めない。となると、どこかに指揮をする者がいるはずだ」
「枝をいくら払っても幹を切り倒さないと終わらないって事ね」
「ああ。遠征軍の一番上、仕切っている奴を見つけないと」
「逆に、そいつをやっつければ終わる?」
ルシルの質問に俺は肯定のためにうなずく。
「ここの戦いは、な」
「判った。じゃあとっととやっちゃおう!」
ルシルは一応乗り気になってくれた。
そうなるとまずは視野の確保だ。
「少しでも高い建物に上って、ボンゲ公国軍の動きを見たい」
「指揮をしている部隊を探すの?」
「ああ」
「前線に出ていて戦闘していたら?」
「それでも指揮命令系統はどこかに現れるはずだ。例えば連動している部隊の動きが伝播する方向、とかな」
「う~ん……」
「ともかく行ってみよう。あの建物……教会かなにかか。尖塔があるな、そこに上ってみよう」
俺はそびえ立つ尖塔を目指して走る。
物見櫓にしてはしっかりしているようだが。
俺たちはその尖塔のある建物の前に到着した。
「ねえゼロ、ここやっぱり宗教的な建物みたいね」
「なにかの教義か、紋章みたいなものが門の上に掲げられているな」
「あの塔、鐘みたいな物がぶら下がっているよ」
「鐘楼か……」
俺たちは教会に飛び込み尖塔を上る。
もう中には人がおらず、逃げ出した後のようだった。ボンゲ公国軍の略奪後なのかもしれない。既に部屋は荒らされていたが人の気配はなくなっていた。他の獲物にでも向かったのだろう。
「邪魔が入らなくて助かる」
「だね~」
俺たちが階段を上りきって、尖塔の窓から外を眺める。
「なるほど、これはよく見えるな」
高いところからだと様子が手に取るように判った。
城の周りにはボンゲ公国兵が取り囲んでいて攻撃を仕掛けている。城からも矢で応戦しているようだ。
「城門はもう閉じられているか」
「城壁まで押し寄せているもんね」
「これではもう住民も退却した兵も城に入れられなさそうだな」
「籠城戦だね」
「ああ」
俺は城とは別の方角を確認する。
敵兵はそれなりに動きが変動するが、無秩序に動いている兵たちは無視した。それよりも重要なのは、部隊として動いている集団を確認する事。
「あの部隊と、あっちの部隊。さっきと動きが違うな。目標物を変更した……ように見える」
「ゼロ、それならあっちにいた集団も、急に動きが変わったよ。一気に城を目指すみたい」
「部隊としてある程度動きが連動してる所を確認しよう。伝令が走ったとしたら、その部隊までに指令が伝達できる時間を逆算すれば……」
その大元にあるだろう位置に目を向ける。
そこには小さいながらも統率の取れた一部隊がいた。
「あれか」
その部隊を指示元と考えれば、伝令が移動した時間と距離を考えれば、前線の部隊がどのタイミングで動き始めるのかが判る。
「ゼロ、あの部隊が指揮官のいる所かなあ」
「きっとそうだろう。戦闘をしていない部隊であれだけの陣容を揃えるなんて、他には見ないからな」
「そうだね、他の部隊は戦闘しているから、そうなるとあれが本陣か~」
「よし、行くか」
「うん」
ルシルは特に不安がっていたりはしない。俺が尖塔から飛び降りると、ルシルも俺に続く。
着地する瞬間に剣技なり爆風なりで地面を打てば、その反動で落下の衝撃を軽減させる事ができる。
俺たちだからできる芸当だがな。