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街の中の惨事

 俺たちはガンゾの街、モンジャールに取り付いたボンゲ公国軍を蹴散らしながら城へと向かっていく。

 その途中途中には略奪を繰り広げるボンゲ公国軍と、果敢に立ち向かおうとするガンゾ辺境伯軍が戦っていた。


「うぉら、死ね! 死ね! 辺境の田舎者ども、我らに刃向かう愚か者めが! 死んで詫びろ! 生きている事を後悔しながら死ねぇ!」


 ボンゲ公国軍は既に野盗以下の無秩序ぶりで街を蹂躙する。対抗するガンゾ辺境伯軍は荒れ狂う暴風雨のようなボンゲ公国軍に圧倒されている。

 ボンゲ軍はモラルの欠如で軍として意味が無くなっていて、ガンゾ辺境伯軍は数の上で部隊として機能していない。どちらも戦闘単位での戦いではなく、個人対個人の戦いになっていた。


「そうなると数が圧倒的に多い上に、容赦のない無制限で無秩序なボンゲ軍の方が優勢になるよな……」


 俺は寄ってくるボンゲ兵を切り捨てながら状況を見て回る。


「そうだよね、守りながらだと戦うのも難しいよね」

「ああ」

「じゃあやっぱり一発おっきいので潰しちゃう? 街も燃やされちゃっているしさ、ガンゾの人たちもこのままじゃただ殺されるだけだし」

「いやいや、どこかで隠れていたりするかもしれないからな、流石にそれはやり過ぎな気がする」

「そっかぁ」


 ルシルは相変わらず不満そうにふくれていた。

 確かに街はかなり破壊されていて、建物は瓦礫になっているし、そこかしこに民の死体も転がっている。


「兵士だけではなく、非戦闘員までも……だからな」

「市街戦だもんね。住んでいるところに敵が攻めてくるんだもん。逃げ遅れたりしたらこうなるよ」


 泥を固めた土壁でできている建物だから、燃えはしないが壊れやすい。それに屋内には可燃物がたくさんある。建物の中に火をかけられてしまえば、鍋や釜の中みたいになってしまう。

 至る所から火の手が上がっているのはそういった状況だからだ。


「うわぁ! 助けてくれぇ!」


 その燃え盛る建物から全身火だるまになって飛び出してくる者がいる。焼け出された住民たちだ。


「ルシル頼めるか」

「いいよ。Rランクスキル海神の奔流(ウォーターバースト)


 ルシルの放つ水の帯が燃えていた住民の火を消し、建物の炎も消していった。


「大丈夫か、服が燃えていたくらいで済んだみたいだが」


 俺は倒れている住民を起こし、焼け焦げた服を手で払ってやる。


「は、はい、ありがとうございます」

「まだ逃げ遅れている者がいるのか?」


 住民たちは顔を見合わせて確認するが、既に統制の取れていない状況では他の者たちが避難できているかどうかなど判らないだろうか。


「いや、えっと、おいらたちも家で隠れていたら、家が燃やされて出てきただけで……」

「そうか。なら今はとにかく城へ逃げ込め。あそこならまだ助かるかもしれない」

「街から出るのは……」


 俺は住民の質問に首を横に振って応える。


「もう外へ出る道は敵兵で埋め尽くされている。隙間を縫って逃げるには危険すぎるだろう。まだ城への道の方が障害が少ない」


 まだ、城への道は煙も上がっていなく、敵兵もそこまで押し寄せていないように見えた。


「わ、判りました。ありがとうございます」


 住民たちは礼を言って城へと向かっていく。

 そこへ脇道から出てきた兵士の一団が現れた。


「おいおい、まだこんな所に獲物がいたぞ」

「ほう、汚え汚えドブネズミがちょろちょろしていやがったぜ、げひひひ」


 兵士たちは血で汚れた剣をこれ見よがしに振り回し、住民たちにその剣先を向ける。


「敵兵じゃないから戦果にならねえけどな、ついでだから殺しちまうか~」

「殺した証拠に耳を削いでいてけばいいじゃねえか。どうせ戦士か住民かなんて判らねえよ」

「ほほう、それもそうだな。んじゃあこれで俺も報酬がたんまりもらえるかもしんねえなあ!」


 兵士が剣を振りかぶり、住民たちに斬りかかろうとした。

 住民たちは頭を抱えてうずくまる者、どうにか逃げようとして後ずさる者、諦めて泣きわめく者、全員バラバラに行動をし始める。

 その住民たちの間をすり抜けて俺が歩いて行く。


「そんなに耳が必要なら、俺がいくつか用意してやってもいいんだぜ」

「お、なんだお前、お前もこの狩りに参加したいってか? 見た所旅人みたいだが、傭兵なら俺らの後でおこぼれに預かるんだなあ!」

「ひゃはは、おこぼれおこぼれ~」


 やかましく笑いたてる奴に向かって俺は剣を振り抜いた。


「ほけ?」

「そら、欲しがっていた耳だぞ」


 俺は笑っていた奴の手に削いだ耳を乗せてやる。


「ほあ、こりゃどうも。おっほ、耳だ、耳だぞ~!」

「おい……お前、それお前の耳じゃねえか……」


 はしゃぐ兵士に別の兵士が指摘した。


「ほえ? 耳? 俺の? あ、ああああ! 本当だぁ! 俺の! 俺の耳みみみぃ!!」


 顔を血で赤く染めながら騒ぎ出す兵士。その様子を見て他の兵士たちがざわめき始める。


「ちくしょう、やりやがったな!!」

「なんて速さの剣なんだ……」

「いでぇ、いでぇよぉ!! みいみみみみ!!」


 俺は敵兵どもと住民たちの間に立ちはだかって壁となり、向かってくる敵兵の相手をしてやった。


「そら、一人二人では勝てんぞ。面倒だから一斉にかかってこい!」

「なにをぉ!」

「いくぞてめぇら!」


 こんな奴らにスキルを使うまでもない。俺が剣を振れば、その回数分の敵兵が斬り倒されていく。


「な、なんだこいつ! 強いぞ!!」

「にげ、逃げろ!」


 斬られた仲間を放っておいて、残った敵兵が俺に背中を見せて逃げようとする。


「俺が見逃すと思うか?」


 俺は左手を前に突き出し、力を込めた。


「さあ、今度は俺が狩る番だな」

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