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籠城戦と遊撃隊

 入ってきた報告は俺たちにも展開される。


「前線に置いてある監視基地や偵察部隊からの報告では、ボンゲ公国の複数拠点で武装蜂起による反乱が勃発。だが日を置かず反乱軍がまとまりを見せる前に中央軍が反乱軍を各個撃破していったと……」


 アカシャが内容をまとめて教えてくれた。その声には動揺による震えが含まれている。


「余勢を駆ってこちらにも軍を差し向けているという話もあるという」

「そこまでボンゲの連中は軍を編制する力があるのか? ボンゲの前線にある村を見た限りでは貧しい状況でやりくりしていて、兵も若手が不足しているから老兵部隊で数だけは揃えていたという程度だったのだが」


 あの村で見た所だとそんなに強大な軍を編制するどころか、局地戦をどうにか維持する事が精一杯だったはず。


「それとも中央が肥え太るために地方から富を吸い上げていたと……」


 俺の考えが口から漏れていた。


「なるほど」


 それを聞いていた辺境伯たちは妙に納得した様子だ。


「それならばあり得そうであるな。そして中央の精兵からすれば地方の反乱など、取るに足らない戦いであると」

「反乱する側からすれば、自分たちに向けられる剣を磨くために働いていたという事か……」


 搾取される側というのは、いつの時代も理不尽な力でねじ伏せられるものなのか。


「それで辺境伯、反乱軍の兵たちはどうなっているか報告あるか? 部隊としての形は保てないまでも、全員が全員殺されたとは考えにくい。逃げたり身を潜めていたりすれば壊滅とは言えないだろう」

「そ、そうじゃが、そうすると……」

「辺境伯、あなたにも立ってもらうぞ」

「びゃぁっ! やっぱりぃ~!?」


 辺境伯は座りながら跳び上がる。なかなか器用なものだ。


「ボンゲ中央軍はこっちにも攻めてきているんだろう? 休戦協定を見込んで前線から兵を引き揚げた事は本来なら悪手だったかもしれないが」

「そ、そうじゃ! 前線で敵を食い止めねばこちらにも襲いかかってくるのだぞ!」

「ああ。だが兵力の集中という点では好手だったと言える」

「なっ!?」


 辺境伯もアカシャも驚いているが、ルシルは平静でいる。


「戦力の分散した状態ではボンゲ反乱軍と同様に各個撃破されるのが落ちだ。それに敵軍が迫ってきている状態での撤退戦は優秀な指揮官がいなければこれも難しい」


 俺は一呼吸入れてワインを口にし、喉を潤した。


「だが今は前線は監視だけに留めて兵力を引き揚げた状態。戦力は今この城に集中している。敵を懐に入れる事にはなるが、それでも戦力差はかなり小さくできるだろう」

「な、なるほど……」


 脆い土壁は心もとないが木の柵よりはましだろう。籠城戦をするにしても少しは役に立ってくれるはず。


「ゼロ」

「なんだルシル」

「私たち二人で行ってさ、その中央軍を叩いてきちゃえばいいんじゃない?」

「まあな。それは俺も考えた。だから辺境伯たちには籠城戦をしてもらう」

「あ、そういう事ね」


 辺境伯たちは俺とルシルの会話がいまいち理解できないらしい。不思議で不安な顔をこちらに向ける。


「俺たちでボンゲ中央軍へ攻撃を仕掛ける。多分それで事足りると思っているが、ボンゲ軍が広範囲に陣を敷いてきた時、流石に俺たちだけではその包囲網全てを相手にする事はできない」

「ふ、ふむ」


 俺たちが主力と戦うという事はいいのだろうか。それとも話の展開が見えなくてそこまで思考が至っていないのかな。


「バラバラな戦場で戦う事は難しいから辺境伯たちにはこの城で守りを固めて欲しいんだ。勝てはしないまでも負けもしないだろう。そしてこらえてもらっている間に俺たちが敵主力を叩き潰してくる」

「そ、そんな事が……」


 辺境伯は確かに疑問に思うだろうが、アカシャはそうではなかった。俺が中央軍と戦う姿を見ているからな。俺の強さ、その片鱗くらいは理解しているだろう。


「お父様、彼らであれば大丈夫です。一騎当千、いや万夫不当の猛者と言っても過言ではないでしょう」

「しょ、しょうなの~?」


 うわずった声で辺境伯は俺を見つめる。

 藁にもすがる思いなのだろうな。


「ど、どうか、頼みたい。お頼みしたい! ガンゾの民は城で守るのでな、どうか、どうかボンゲ軍を撃退して欲しいのじゃ!」


 辺境伯は椅子から降りて俺の所へ駆け寄ってくる。

 そして潤んだ瞳で仔犬のようにすがりついてきた。


「まあ、やるだけやってみるか。な、ルシル」

「うん」


 俺は残ったワインを一気に飲み干し、席を立つ。

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