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国力の差と力の均衡

 俺とルシルはアカシャと一緒にガンゾ辺境伯領の首都であるモンジャールの街へ向かっている。


 俺はルシルと一緒に借りた馬へ乗っている。ルシルは俺にしがみつくようにしてつかまっていた。

 他にはアカシャと数名の下士官が騎乗していて併走している。


 アカシャの率いる隊は、撤収部隊よりも先に出発していて護衛の兵が少ない。十人にも満たない騎馬だけの隊だ。


「兵が少ないのではないか? 大丈夫か高級士官の旅としては」

「うむ、前線へ向かう時は大部隊を引き連れて行進していたのだがな、貴様がおれば多少の事は気にせずともよいだろう」


 そう言ってアカシャは俺に向かって片目をつぶってみせた。


「だから兵の数は少なくした。撤収する部隊の方がなにかと人手が必要になるだろうからな」

「それならアカシャ、お前も撤収部隊と共に帰ればよかったのに」

「それはそうだが、少しでも早く休戦協定の報告をせねばならないだろう。一日の遅れが千人の命を奪う事にもなる」


 小競り合いが続けばそれだけ無駄な血が流れるという事か。


「だがここで聴いていいのか判らんが、ボンゲ公国が内紛で分裂したとすれば、ガンゾ辺境伯領からすれば好機なのではないか? どちらかに加担すれば敵は勝手に半分が消えてくれる」

「ふむ」


 アカシャは面白そうな顔を俺に向ける。


「そしてボンゲ公国の残りを叩けば、正面から戦うよりは労せずしてボンゲを壊滅させられるのではないか?」

「ふぅむ」


 今度は難しそうな顔で悩み始めた。


「貴様のいう通り、ボンゲ公国を滅ぼすにはいい機会かもしれぬ。だが……」

「だが?」

「正直言ってな、自分らもそこまで展開する力は持っておらんのだよ」

「そうなのか?」

「ああ。ボンゲ公国に比べて自分らガンゾ辺境伯領の国力は半分にも満たない。地勢的な利点があって戦にはどうにか負けずにいられるが、それでも戦線を維持する事は至難の業であった」


 なるほどな。ボンゲ公国軍は辺境の小競り合いにも二千からの兵を動員していた。

 それに比べて前線基地に駐屯していたガンゾ辺境伯軍は五百もいなかったから、維持できる軍隊の規模はそのまま国力の差にも出ているというのだろう。


「だがボンゲ公国軍も前線は老兵も多く、働き盛りの男たちが減って国力の低下を招いているが、ガンゾ辺境伯軍は若者も多いように見えたぞ」

「そうだな、なるべく守り主体にして被害を最小にというのが自分らガンゾ辺境伯軍の方針だからな」

「そうやってどうにか均衡を保っていたという事か」

「ああ。そういう事だ。だからボンゲ公国で内乱が起き、こちらに目が向かなくなる事は自分らとしてもありがたい話なのだよ」


 アカシャは自虐的にそう語る。話を聞けば、耕作できる土地の広さが国力にも影響しているし、たとえ人口が多くとも作物が実らねば生きてはいけないというのだ。


「それにしても貴様、ボンゲ公国軍へのあの戦い方、天晴れだったな! みなの者も見たであろう!?」

「おお!」


 周りの兵たちもこぶしを上げてアカシャの声に反応する。

 アカシャは俺の強さを認めてくれたのか、なぜか得意気に周りの兵たちへ自慢するのだった。


 少し、ルシルの締め付けが強くなった気がする。

 多分気のせい、だが。

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