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許す事の限界

 国王は哀れな目で俺に懇願する。


「判った、判りました、ね? もう手出ししない、させないから、だから許して、殺さないで……」

「いつ俺の寝首を掻いてくるか判らないような奴が生きていたら落ち着かないのでね、残念ながら今日でお別れだ。俺とあんたがじゃなくて、あんたの首と胴が、な」

「ぶぶぶ、無礼であるぞ国王陛下に向かって!」


 聖剣グラディエイトを一瞬で抜くと、文句を言う大臣の口に剣先を差し込む。


「ほ、ほげっ」

「少しは黙ってなよ、これは俺と国王が対等に話しているんだ。そこに割り込んでくる方こそ無礼だろう」


 俺は剣を横に引くと大臣の頬が斬り割かれた。

 大臣は言葉にならないうめき声を上げて両手で頬を押さえながら転げ回る。

 国王ムサボール三世は生まれて初めて玉座で失禁した事だろう。湯気の立つ染みが広がり、玉座と絨毯を汚していく。


「ひいぃ……!」


 俺が剣を抜いた事で謁見の間にいた貴族たちが慌てて出て行くが、俺は特に気にしない。


「用があるのはこの卑しい肉塊だからな」

「ふぼぅ、ぶふぉっ」


 涙と鼻水で汚れた顔が人間とは別の生き物のよう。見るに堪えない醜悪な怪物、権力の化け物だ。


「ゆ、ゆるして……」


 俺は一つ大きなため息をした後、剣を振って納める。


「心に悪が巣くう奴を救う価値なんて見いだせないが、国王陛下、あなたに一度だけ機会を与えましょう。これから俺の言う事は絶対守ってくださいね。そうすれば死なずに済むかもしれません。約束できますか?」

()()る、約束でも契約でもなんでも()る!」

「いいでしょう。それでは陛下、あなたはこの腐った王国の玉座に座っているといい。そうですね、治癒士があなたの傷を治すまで、としておきましょうか。それまでは俺に敵意を持たず、攻撃もしないで大人しくこの椅子に座っていてください。そのままの姿勢で」

「わ、わ()った……」


 俺の視線に射すくめられたかのように、国王は微動だにしない。


「治癒士はそうですね、大臣にでも呼んできてもらいましょう。今はまだ俺の声が届かないようですから、落ち着いたら呼んできてもらうよう頼んでみてください。頬と下顎が割れてしまったのですぐにはしゃべれないかもしれませんけどね」

「ああ、そう()る……」

「いいですか、俺があなたを許すとしたら今後一切俺に敵意を向けない事。それだけです」


 それだけ言うと、俺はもう国王に背を向けて謁見の間を出ようとする。

 耳の奥が少し痛む。

 敵感知センスエネミーの発動か。言った矢先に敵意を向けてくるなんて。


「こ、これで()んだとおもふま(うな)よ、ありゃ……?」


 国王が立ち上がった。


「おりょりょ……」

「だから座ったまま動くなと……」


 国王が立ち上がった勢いで首に切り込みが入り、そのまま首が転がり落ちた。

 切り口からは心臓の鼓動に合わせて天井まで血が噴き出し、徐々に収まっていく。


「鋭利な刃物で斬られた者は自分の傷に気が付かない事もあるという」


 俺は剣を納める時に一度国王の首を通過させていた。その時点で首は斬れていたのだが、傷口すらも斬られた事に気が付かないのだ。


「だから動かないで治癒士を呼べば治癒魔法で治す事はできたかもしれなかったのにな。動くものだからこうなる。契約不履行だ」


 俺は玉座を己の血で塗らす肉塊をそのままにして謁見の間を出た。

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