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青のクーデター

 俺の周りには大臣がけしかけたチンピラどもが転がっている。そこから遠巻きにドブリシャスたち先鋒隊の連中が武器を構えていた。


「ちょっといいですかねえ」


 ドブリシャスはそれまでとは違う、獲物を狙うような目で俺を見て、それからその視線を大臣のアクダイに向けた。


「なっ、なんだ! 早くこの旅芸人を殺せっ!」


 アクダイは目を血走らせ泡を吹きながら指示を飛ばす。

 だが、先鋒隊の兵たちが行ったのは、アクダイを後ろから羽交い締めにする事だった。


「なにをっ! お、お前ら! ワシになにをするっ! ワシは大臣であるぞっ!」

「そんな事は知ってらぁ! 仕掛け師さんが大活躍してくれたお陰で、中央の近衛隊も大臣の手下どもも綺麗さっぱり片付いた。我らを力で押さえつける連中はもういない!」

「なっ、お前らぁ、ワシを裏切るか! 公国に弓を引くつもりかっ!」

「なにも我らは大臣を裏切るなんてつもりはまったくありませんぜ。我らは元々この村とその近隣に住む者だ。それも長い事戦争に駆り出されて村は干上がっちまった」


 アクダイは縄でぐるぐる巻きにされて自由がきかない状態になっている。その上布で口をふさがれているから、ドブリシャスの演説を黙って聴くしかない。


「前の領主様は我らの事を考えてくれて、作物が取れない時も一緒んなって狩りを手伝ってくれたりもしたが……おう、お前はどうだアクダイの旦那!」

「む、むぐぐ……」

「中央から追い出されてこんなへんぴな村に来たのは流石にお貴族様にはつれぇだろうって思ってたけど、それどころか権威を振りかざして税を巻き上げる始末! しかも自分は私腹を肥やして民の苦しみなんて無視しやがって!」


 ドブリシャスの剣がアクダイの喉元に向けられる。


「だが今は殺さねえ」


 ドブリシャスが剣を納めると、他の連中も同じように武器をしまう。


「形式ばかりで面倒だが、大臣を殺して乗っ取ったと公国に知れたら討伐の軍が編制されちまう。今そうなっちまうと困るんでね。連れて行け」


 ドブリシャスが部下に指示をすると、数名の兵士が大臣を館の中へと連れ去ってしまった。


「さてと、これでいかがでしょうかね」


 ドブリシャスは館の中に話しかける。

 それを聞いたからか、館から誰かが出てきた。


「苦労をかけたな、ドブリシャス」

「いえ、公弟様」


 館から出てきたのは、昨夜俺を呼びつけた少年。

 だが、あの時の気弱さを微塵も見せず、堂々とした態度で歩いてきた。


「どうして……まさか公弟っていうのがこのゴタゴタの首謀者か?」

「仕掛け師さん、まあ言い方ってのがあるけどさ、公弟様は今の公国にはびこる不正をただそうと、我らと共に立ち上がってくれるお方なんですよ」

「公弟が!? 公爵の実の弟だろう?」

「実の弟君だからこそ、我らの困窮を見逃せないとお言葉をくださったのだ。だから我らは公弟様を旗印に、正しい公国のあり方を国に広める必要があるんだよ!」


 そうか、俺が敵対武装勢力を排除してしまったとはいえ、そもそもが公弟を使った地方の武力反乱を狙っていたんだな。


「それでな仕掛け師さん、あんたにはガンゾとの休戦協定を結んで欲しいんだ」

「昨夜言っていた間者の事か」

「そうだ。我らは今までガンゾと戦っていたからな、中立の者であれば悪くはされないだろうし、弱みを見せるわけにもいかん」

「だが、こちら側がもう片付いたとなれば、お前やそれこそ公弟がガンゾの陣へ行ってもいいんじゃないか? 大臣や中央の近衛隊がいたから秘密にしなければならなかったのだろう?」

「本当であれば我らもそうしたいが、まだ事を公にしたくなくてな」

「これだけ騒ぎになればもう手遅れのような気もするが……」

「いや、まだ村の外には漏れていない。中央からの連絡のためにも大臣を生かしておいているのだからな」


 もう村の中には反中央勢力が押さえているものの、それを中央には気付かせないでいたいという事か。


「近隣の村々とも連携を取っていきたい所でもあるしな。だからこれを」


 ドブリシャスは懐から小さく畳んだ紙を取り出した。


「これはガンゾの者に渡すための密書だ。これをとある貴族のご令嬢に渡してもらいたい」

「ガンゾの他の奴には気付かれずに、か?」

「そうだ。今であれば前線に来られている、アカシャという女性士官だ」


 アカシャ。あの鼻持ちならない長い金髪の高級士官か。一人で天幕を使っている、専用の風呂も持っている、あの贅沢貴族の娘。


「あの女性士官か。今の前線に士官クラスが来るのは初めてだと言っていたが……」

「お、仕掛け師さんはアカシャと会った事があるのか!? それであれば話は早い!」

「できたら会いたくはないんだがなあ……」


 逃げ出すようにしてあの場を離れたからな、戻るのにはなかなか勇気がいりそうだ。


「まあいい、とりあえずやってみるか。なにかあってもその時はその時だ」


 俺はひったくるように密書を受け取ると、ズボンのポケットにそれをねじ込む。

 面倒な仕事だが、どうせ力では俺たちには勝てないだろうから、あとはどれだけ穏便に事を済ませられるか、だ。


 もう日はだいぶ高くなっていた。出発は明朝早くにしようかな……。


「今日は休まれるなら館の中に部屋を用意するが」

「いや、いい。気にしないでくれ」


 それだけ言って、俺たちは今一度宿に戻った。

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