芯に近づいて行く程腐っている
俺とルシルを包囲している連中はアクダイの支配下にある軍なのだろう。
「おや、そこのお前は確かドブリシャスとか言ったよな。先鋒隊の」
「仕掛け師さん……」
ドブリシャスも剣を抜いて俺たちを包囲する輪に加わっている。
「ルシル」
「うん」
俺が目配せをすると、ルシルは少しだけ目をつぶった。俺は剣を抜いてそのルシルを守るように周りの連中を威嚇する。
「ゼロ」
「どうだ?」
「大丈夫」
ルシルは俺の考えを理解してくれていた。
周りを見ると、アクダイの周りにいる連中は俺に対して目をぎらつかせている。戦う気満々の奴らだ。
だが、ドブリシャスたちの目には強い意志を感じるが、俺に向けた戦意が薄い。いや、感じられない程だ。
アクダイはそんな兵士たちの違いを理解していない様子で俺に向かって高笑いを続ける。
「ここでお前らを始末すれば、中央には近衛隊に危害を加えた奴を葬ったとして報告できる。ワシがその功績で中央に返り咲く事もできよう!」
アクダイが俺に指さして、妄想の産物である自分の計画をベラベラとしゃべっていた。
「そのためにも公弟にはワシの言う事を聞いてもらってだな、中央とのつながりを強固な物にするため、役立ってもらわなければなぁ! ワーッハッハッハ!」
公弟に危害を加えようとした旅芸人を大臣が守った。だが近衛隊に被害が出てしまったので、公弟の護衛役は自分が務めるとでも言うのか。そうして恩着せがましく自分の存在を中央に認めさせると。
「そうした悪事を企むから、中央から飛ばされたんじゃないのか?」
「なっ!」
俺の軽口にアクダイが過剰反応する。
これしきの皮肉も聞き流せない程、こいつの心は狭いという事を露呈してしまったな。
「ええい、お前たちなにをしているっ! 早くこいつを殺せっ! 片付けろっ!」
わめき散らすようにアクダイが指示をするが、今しがた俺の強さを見ていた奴もいただろう。包囲している側の兵士たちはなかなか俺に挑みかかろうとしない。
「これだから前線とはいえジジイばかりの部隊は役に立たねえな」
偉そうな口ぶりで兵士たちをかき分けてきたのは、アクダイの周りにいた目つきの悪い連中だ。
「いいだろう、先鋒隊とかの前線部隊はこいつらを囲んでな。逃げられねえようになあ! 片付けるのは俺らでやるからよ。いいですよねぇ、大臣様!?」
「おうおう頼もしいのう! さすがはワシの懐刀じゃ。存分にやってみせい!」
「へへっ」
ぞろぞろとやってくる連中は、確かにさっき倒した近衛隊よりも人数が多かった。
「ようし、やっちまうぞ!」
「おうさ!」
「へへっ!」
そいつらは思い思いの武器を手に襲いかかってくる。
「いいだろう、相手になってやる」
そう言いながら俺は剣を一閃した。
言い終えるかどうかという時点で、既に一人の首が飛ぶ。
「バラバラに突っ込むな! 取り囲んで押し潰せっ!」
チンピラのような奴らが一斉に突撃をかけてきた。
「一人が倒されても次の奴が仕留めれば!」
「突っ込め!」
結局は力任せの無為無策か。
俺は呆れつつも押し寄せてくる敵を打ち倒していく。
「な、なんだこいつ、不思議技を使っていないのに……」
まだ俺に斬られていないチンピラどもは少し間を取ろうと攻撃の速度を緩めた。
それを見ていたアクダイがヒステリックに叫ぶ。
「ええい、偉そうな事を言って傷一つ負わせられてないではないかっ! こうなれば、ジジイどもも攻撃を開始しろ! この旅芸人だって腕は二本だ! それに戦い続ければ息も上がる! 疲れさせて倒すのだっ!!」
先鋒隊の連中も、ジリジリと俺に近づいてくる。
「さてと、それはどうかな」
ドブリシャスが薄ら笑いを浮かべながらそうつぶやいた。