大臣の手のひら返し
そこから先はあっという間だ。俺の爆炎とルシルの電撃が青黒マントの男たちをことごとく蹂躙していく。
「ひっ、ひぇぇ!」
「こ、こいつら鬼か悪魔か……」
う~ん、ルシルは角もあるし鬼っぽいけど。
「残念、元魔王でした」
ルシルが電撃を放って逃げる男の背中に直撃させる。
それが最後の一人だった。他の奴は俺が葬っておいたからな。
「さてと。危害を加える奴はこれでいなくなったと思いたいが」
俺が黒焦げのマント男たちを見る。生き残っている奴はいない。
全身無事であれば死んだふりもできるだろうが、全身焼け焦げていて更に腕や足が炭化してもげていた。
その状態で死んだふりはできないだろう。
「まあ、気を失っている奴はいるかもしれないが、生きていたからといって治癒スキルも無い連中じゃあ復活は難しいだろうな」
「そうねえ、生きていればね」
さあ、こうなればまたなにか動きが出てくるはず。
それが公弟なのか大臣なのか。
館の前での大立ち回りだからな。
「おーやおや、これはとんでもない事をしてくれたなあ!?」
館の中から出てきたのは、でっぷりと肥え太った男だった。
「ワシの目の前で公爵様の近衛隊に対してこのような事をしてくれたとはなあ!」
大臣のアクダイは扉の所で腕を組んで立ち、俺たちを見下すようにふんぞり返っている。
「はっ! よくやってくれたなあ。下賤の者と侮っていたが、いい働きをしてくれたわい!」
「はぁ?」
アクダイは大笑いをして喜んでいた。
「なんだお前、公爵の近衛隊という事は自分の主人に仕える兵だろう? それがこんな黒焦げの状態を見て喜んでいるなんていうのはおかしいんじゃないか?」
「はーっはっはっは! おかしい、おかしいぞ! 変だという事ではなくてな、面白いというおかしいだ!」
「どういう事だよ」
「ワシはな、この近衛隊……」
ここでまたアクダイは吹き出して笑う。
「この近衛、だって! プーックスクスクス! このこの、このえ、ぶひゃひゃひゃひゃ!」
自分で口にした言葉で大笑いしているなんて、それこそ変な奴だな。
「なにがおかしいんだ」
「ふー、笑った笑った。いやなあ、ワシはこの近衛隊が目の上のこぶだったのだよ。それをお前らが片付けてくれたのでな、ワシは労せずしてまたこの村の頂点に立てたという事だ!」
「ほう、中央から派遣された連中が迷惑だったと」
「そうだ! そうに決まっているだろう! 今までワシが中央から追われこの場末の村に流され、それでもこの村でどうにか地位と権力を築き上げてきたのだ! それを公爵の威光を笠に着てワシをないがしろにしやがった!」
アクダイは転がっている死体を蹴飛ばし、踏みつける。
「このっ、このっ!」
更に他の死体にも同じように蹴りを加えた。
「ふぅ、はぁ……。そして後は公弟が残るだけ。あの怯えきったガキがな!」
アクダイは公弟を捕らえて自分の手駒にしようとでも考えているのだろうか。
「どうだ旅芸人、お前たちの功績を認めてやってもよいのだぞ?」
上から目線で嫌らしい言い回しで俺たちを見る。
その視線は値踏みをするかのようだ。
「まあ、言う事を聞いても聞かなくてもいいんだがな」
アクダイがそう言って右手を高く上げる。
そうすると、館の中だけではなく、村の建物や通りからも人が集まってきた。
中には見た事のある奴もちらほらいる。
「嫌なら嫌で、近衛隊程の強さはないにしても、その数は近衛隊の数倍はいるからな。先鋒隊が一堂に集まれば抵抗は無意味としるだろうて」
俺たちは完全に囲まれた。
先鋒隊は既に剣を抜いて戦う構えができている。
「ほう、俺たちはこの程度で止められると、そう思っているんだな」
「ぐふふ、やせ我慢を……」
アクダイは包囲されている俺たちを見て、きっと勝ちを確信したのだろう。
その目には、自分の思い通りに事が運ぶと信じている、その傲慢さが映って見えた。