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館の前での包囲戦

 俺とルシルは館まで青黒マントの男たちを追う。


「どうするゼロ、仲間でも呼んだらめんどくさいよ?」

「まあな。でもこれで少しは動きが出るだろう」


 案の定、館の中から何人も青黒マントの連中が出てきた。


「やいやい仕掛け師風情が俺らに歯向かうなんてなあ!」

「返り討ちに遭いに来たって事かい、げひひひ!」


 こいつらまだ判っていないのか。俺が見せかけのスキル使いならわざわざ追ってきたりはしないだろうに。今まで強権を振りかざして自分たちが追われたことなんてなかったからだろうか、のんきなものだ。


「さっきの飯屋での借りを返してやるからな!」


 やっぱりな。こいつら、応援が増えれば数で押し切れると思ったらしい。

 俺たちが追っかけてきた所を人数でやり返そうというつもりなんだ。


 連中は既に剣を抜いて俺たちを反包囲しようとにじり寄ってきた。


「お前たちの最大戦力はこれだけか?」

「なにっ!?」


 俺は先頭の奴に聞いてみる。


「だから、お前たちが動員できる兵力はこんなものかと聞いている」

「なんだとう! 三十人相手にそんな口をきいていいと思ってんのか!?」

「三十人か……」

「そうだ、三十に」


 そいつが言葉をしゃべり終える前に、俺のこぶしがみぞおちにめり込んだ。


「ぶふっ!」

「これで二十九人。超加速走駆ランブーストを使うまでもないな」


 腹を抱えてうずくまる青黒マント。周りの連中にも俺の速さは予想外だったみたいだ。一様に驚きの顔、アホづらを見せている。


「なっ、てめぇ! こうなったら一斉にかかれっ!」

「おうっ!!」


 まだ包囲網ができていない状態で青黒マントの男たちが襲いかかってきた。


「俺らは公爵様の近衛隊だからなぁ! 後から吠えづらかいても知らねえぞ!」

「いーや、こいつは公爵様に楯突く反乱者だ、今から処刑を開始するっ!」

「ぎゃははいいねぇ、処刑! 処刑~!」


 口々に適当なことをほざきながら突っ込んでくる。

 俺の耳の奥はかすかに痛い。こいつら、明確な殺意を俺に向けているな。敵感知センスエネミーで捉えることができる。


「ふぅむ、判ってはいたが殺意を持っているという事は自分も同じ境遇に遭っても文句はない、そうだな?」

「なに御託を並べてやがんだ! もちろん俺らは無傷でお前だけが死に直面しているんだよ、この旅芸人がぁ!!」

「度し難いな」

「なんっ!?」

「自分たちが殺す事は当然で、殺される側はただ殺されるだけだと思っているのか」

「ぎゃはは! 威勢がいいなあ! でもなあ、この人数相手に……」


 風切り音と共にそこまで叫んだ男の言葉が止まった。そいつはもう言葉を口にする事はない。その口から漏れるのは別の。


「ごぶっ、がはっ……」


 俺の剣がそいつの胸元を突き刺していて、己の吐き出した血で口から下が赤く染まる。

 剣を引き抜くと、そいつは青黒マントを赤くして仰向けに倒れた。


「やろうっ!」

「や、やっちまえっ!」


 他の連中は多少ビビりもするが、それでもまだ自分たちの優位は揺るがないと思っているらしい。


「Sランクスキル発動、剣撃波ソードカッター。近寄らずとも切り刻むぞ」


 俺の発動させた剣技で目の前の奴が切り伏せられる。


「なっ、こいつ剣を交えずに!」

「怪しい技をっ!」

「奇術師めっ! だがそんな小手先の技、この数で押せばっ!」


 本当、こいつら判っていないな。


「剣での戦いなら勝てると思ったか?」


 直進する奴の剣を払って相手の体勢を崩す。よろけたところで俺の剣がそいつの背中を深くえぐる。

 右手からやってくる奴の剣は太刀筋を見切って身体を少しだけ避けるだけで済む。空振りをしたところで両腕を叩き斬った。

 そいつが倒れる背中を踏み台にして跳び、上から剣の届く範囲にいた三人の首を刎ね飛ばす。

 着地すると同時に身をかがめ、横にいた奴の股間から脳天までを切り裂いて真っ二つにする。


「なっ、こいつ」

「化け物かっ!」


 俺の周りには既に累々たる屍の山ができあがっていた。


「だ、だが!」


 慌てた連中が次に考える事。それも俺の予想は超えていない。


「わっははははー! どうだあ、この女を殺されたくなければ大人しく剣を捨てろぉ!」


 マント男がルシルの背後から首に手を回し、短剣の先をルシルの身体に押しつける。


「む~」

「ぬははは、この女、怖くて言葉も出せないようだぞぉ!」


 焦った顔、だが一発逆転で勝ち誇ったような態度でマント男が高笑いしていた。

 それにつられて生き残った他の連中も勢いを吹き返そうとしている。


「ゼロ~」

「ルシルにしては珍しいな、そんな簡単に背後を取られるなんて」

「え~、助けて~」


 あ、判った。


「はぁ……お前、わざとだろう」

「え?」


 すっとぼけた顔でルシルはあらぬ方向を見る。


「なにをごちゃごちゃ言ってやがんだ! 降参しねえとこの女殺すぞっ!」

「は~。判った判った」

「判ったんならいいぞ、よし、その剣をしまうんだ!」


 俺は呆れながらも素直に剣を鞘に納めた。


「Nランクスキル、雷の矢(ライトニングアロー)

「びぎゃぁぁっ!!」


 ルシルの放つ電撃が男の短剣から伝わって全身を痺れさせる。

 黒焦げになったマント男が倒れる音は、思った以上に大きく響いた。

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