貸し切り宴会
俺たちは面倒に巻き込まれたくはなかった。
「ルシル、とっとと飯を食って外に出ようか」
「そうだね。食後のお茶を飲みたかったけど……」
俺たちが小さい声で話しながら食事を片付けていた時だ。
「おいおい、昨日の旅芸人じゃないか」
一人の青黒マントが俺たちに気付いた。いや、元から気が付いていたのだろうが、あえて後からなぶるように今気付いたようなふりをしたんだ。
「こんな時間にお食事かぁ、ああん?」
やたらといろいろな角度で俺たちを見る。にらみを効かせようとしているのだろうがな。
「なんだなんだおぃ~。こんな所でのんきに飯なんか食いやがって、俺らは昨日の呼び出しで寝てねえんだぞこらぁ!?」
マント男は俺の目の前で首と身体をくねらせながら威嚇をしている。
当人はそのつもりなのだろうがな。
「俺は別に誰とも争うつもりはないのだが。飯を食ったら大人しく出て行こう。それでいいよな?」
俺は丁寧に、諭すようにそう告げるが、やはり相手にはそれが通じないらしい。
「ああん? 誰のせいで俺らが寝不足になったと思ってんだ、あぁ?」
「それはお前らの主人のせいだろう?」
「ぶっつーん!」
マント男はなにか不思議な擬音をわざわざ口に出して俺の胸ぐらをつかむ。
「おめーらがいなけりゃ俺らがあのクソッタレのガキにこき使われることもなかったんだよぉ! 夜中に使いっ走りなんぞさせやがって!」
マント男の飛沫が俺に飛ぶ。
とんだ言いがかりだ。八つ当たりもはなはだしい。
俺はテーブルに置いてあったナプキンを使って顔をぬぐった。
「なに気取ってやがんだこらぁ!」
マント男は俺の襟首をつかんだまま持ち上げようとする。
「Nランクスキル発動、氷結の指」
俺がマント男の手に触れてスキルを発動させた。
「ちべてっ!」
男は慌てて手を放す。
「なにしやがったてめぇ!」
「別にそんなたいしたことはやっていないぞ」
「で、でも、手が冷たく……」
「それはあれだ、お前の手を一瞬凍らせたからな」
「ひ、ひいっ!」
マント男は尻餅をつきながら後ずさっていく。
だがその周りの連中はそうでもなかった。
「こいつ、よくもやってくれたな!」
「怪しい奇術師めっ! 旅芸人のくせにっ!」
青黒マントの男たちは口々に俺の悪口らしい事を言いながら椅子から立ち上がる。
今までニヤニヤ笑っていた連中も、目が真剣なものになった。
「そっちが勝手に突っかかってきたのだろう。それを返り討ちに遭ったからといって俺を恨むのはお門違いってもんじゃないのか?」
「う、うるせぇっ!」
本当にこいつらは中央の近衛隊なのか? あまりにも柄が悪いからどこぞのチンピラかと思ったぞ。
「相手は一人、人数は俺たちが多いんだ!」
「囲んでたたきのめせ!」
弱い奴が言うお決まりの台詞だな。弱いからこそ群れる。
「そこまで言うなら相手になってやるが……」
俺は向かってこようとする連中ににらみを効かせた。
「怪我しても泣くなよ。Rランクスキル発動、雷光の槍! あの分からず屋どもを貫き通せっ!」
俺から放たれた電光は青黒マントの男たちに次々と命中する。
「ぐわっ!」
「なんだこいつ、いったい……!」
俺のスキルを受けてもんどり打って転がる連中と、それを見て二の足を踏む連中。
だが俺のスキルはそんな奴も見逃さずに、的確に打ち抜いていく。
「ひとまず全員電撃を食らって転がっているが……俺たちをさえぎる者ないなければ、このまま失礼するぞ」
「う、うぐぐ……」
マント連中は転がって電撃で痺れている。
俺はその中に一人いを足で転がして上向きにさせた。
「よかったなあお前たち」
「ふぁっ!?」
「これが戦場だったら、お前たち全員生きてはいられなかっただろうな」
「ぬ、ぐぐぐ……。覚えていろよ、俺たちが何者かを……」
権力を笠に着て物事をなそうとする奴はこれだから……。
「己の口でかたらず、他人の権勢を押しつけるか」
「なっ……」
「もはやその口は信念を吐き出す事もないな」
「ふぐぅ……」
俺は巨大な炎の塊を空中に浮かべる。
「この高熱の炎の塊、お前たちくらいなら三回は骨も残らず燃え尽くせるだろうよ」
「ひっ、ひいっ……」
マントの男たちは逃げ去る者もいればへたり込んで動けない奴も出た。
「ふうっ……」
俺は炎の塊への魔力供給を止めると、跡形も残らず炎は消え去る。
「ち、ちくしょう、覚えていろっ!」
捨て台詞を吐いてマントの男たちは食堂を出て行った。
「さてと」
俺はそいつらを追うように食堂を出る。
「どうするの?」
ルシルもついてきて俺に尋ねた。
「そうだな、奴らが戻ってくる時に大きな宴会を開いてやろうと思ってな」
俺は奴らをの事を目で追う。
案の定、奴らはあの大きな館へと逃げ去っていった。