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近衛隊と先鋒隊

 一夜明けて、というか旅芸人の朝は遅い。だいたいが真夜中まで宴会に付き合わされたり芸を披露したりで、眠りにつくのが深夜になってからがほとんど。それに昨夜は夜中に反乱の相談があったりで寝たのが明け方になってから。

 俺たちは何事もなかったかのように宿へ戻り、宿屋のオヤジが心配して出迎えてくれて、それでようやく眠りについたんだ。


「それでもしっかり眠れるんだからゼロの精神もたいしたものだよね~」

「俺より起きるのが遅くて寝相も悪かったお前に言われたくねぇよ」

「てへへ~」


 俺たちは軽く身なりを整えて一階の食堂へと降りてきた。ここは夜には酒場にもなるし、たまに旅芸人がやってきた時には小さいながらも舞台になるような、まあよくある酒場兼宿屋だ。


「ほい、お待ちどう」


 宿屋のオヤジが俺たちに遅い朝食だか早い昼食だかをもってきてくれる。

 皿の上に盛られたイモに塩と香草で炒めたソーセージが添えられていた。


「オヤジ、夜は大丈夫だったか? あれから詳しく聞けなかったけど……」


 見たところ食堂も簡単な修繕はしたみたいだったが、部屋の隅に壊れた椅子とかが積まれていて昨夜の騒ぎを思い出させるには十分だ。


「まあよくある酔っ払いのケンカと思えば、ね。それに相手は近衛隊だから、こっちは泣き寝入りだよ」

「オヤジ、あんまり声が大きいと誰に聞かれているか判らないぞ」

「ははっ、旅の人に気を使われるなんて、この村も住みにくくなったもんだぜ」


 あの横柄な青黒マントの男たち、公弟の護衛という扱いではあるもののその兄である公爵の息がかかった連中で、村の住人からもよく見られていないな。


「たしかにあの青黒マントは態度がよくなかったからなあ。旅芸人の俺から見てもよく判るけど、貴族のお偉いさんとかそれについている連中からはああいった雰囲気ってあるよな」

「はははっ」


 宿屋のオヤジは乾いた笑いで応える。


「だがなあ旅人さんよ」


 オヤジがお代わりの水をもってきてくれた。少しだけ声を小さくして。


「ここの村を治めている大臣も酷くてね。元々中央で貴族たちの争いに敗れて前線に近いこの村に追いやられたらしいっていうのは聞いているんだけど、自分より偉い人がいないからって村ではやりたい放題でさあ。税金は高いし兵役には年寄りも取られるしで、村の活気がどんどんなくなってきてよう」

「おいおい、そんな話も俺たちにして大丈夫か? もし俺たちが告げ口でもしたら」

「ははっ、そうなったらそうなったで、こっちとしてはどうしようもないからな。どうせこのままじゃあ生活はよくならないんだ。これ以上悪くならないとなれば、いくらでも悪態がつけるというものさ」


 宿屋のオヤジは空いた皿を持ってテーブルを離れる。


「なあルシル、宿屋のオヤジが言うように、どうやら大臣と公爵の近衛隊は評判が悪そうだな」

「公弟自体はあまり表に出てきていないみたいね」

「そのようだな……お?」


 ガヤガヤと数人の男たちが食堂に入ってきた。


「いやぁ腹減ったわい!」

「偵察だけでも疲れるのう」

「そうだのう、いつガンゾの連中が来るか判らないからなあ」

「でもまだ小競り合いの報告は前線からは来ていないだろう?」

「さあてなあ、どうだろうのう」


 偵察や監視をしていた連中が昼食に来たようだ。一気に食堂の中が賑やかになっていく。

 だが見るとやはり年配の兵士が多い。

 その連中が俺たちを見て近寄ってくる。


「おお、仕掛け師さんじゃないか、昨日の不思議は面白かったぞい!」

「今日もまた見せてくれんかねえ?」


 兵士たちは注文を待つ間に俺たちへ話しかけてきた。

 そんな時に、周りを威圧するような態度で青黒マントの男たちが入り口の所で仁王立ちしている姿を見てしまう。


「お前らっ、こんな所でなにをしているっ! いつ敵が来るか判らない時だと言うのに、のんきに飯など食いやがって!」


 入り口に陣取っているから他の客は入ってこれない。

 それどころか席について注文を頼んでいた連中も、そそくさと席を立って食堂から出て行こうとする。


「とっとと持ち場に戻れっ!」


 青黒マントの男が兵士たちを蹴飛ばして外へと追い出す。

 そして入れ替わりに青黒マントの男たちが席を占領する。


「おいオヤジ、酒だ酒っ!」

「早くしろよクソ狸が! ぎゃはは!」


 青黒マントを羽織った近衛隊の連中は、食堂の中、傍若無人な態度で居座り始めた。

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