つなぐ想い
ドブリシャスは剣の柄に手を添える。
別に俺はどうとでも対処できるからな、変な緊張はしないがドブリシャスたちの顔から汗がしたたり落ちた。
ドブリシャスたちは視線を俺に向けながらゆっくりと立ち上がる。
「我らの望みを叶えられなければ……」
ドブリシャスたちは一斉に剣を抜き、刀身を指でつまむようにして持つ。そうすることで、剣の柄が俺の方へと向けられる。
「この命ここで絶えても構わん。計画を話した以上意見の相違があれば我らかそなたらが死をもって口をつぐむしかあるまい」
騎士の礼にもつながる行為、自分の胸に剣先を、相手に柄を向ける。そうして相手に自分の命を預けるという振る舞いだ。
「そうか」
俺は差し出された剣の柄に触れ、軽く押し出す。
「うっく……」
剣先がドブリシャスの胸に届くか届かないかといった所で、俺は剣の柄を握り剣先を天井へと向けて柄をドブリシャスに渡した。
俺も国王をやっていた身だからな、こういった儀式的な所作というものは心得ている。
「それでは……」
「お前たちの覚悟は理解した。その剣を、お前たちの命を俺が預かろう」
「おお……」
「だがお前たちの考え、計画が必ずしも結実するとは確約できない」
「えっ、では賛同はいただけないと?」
「そうではないが、俺も様子を見聞きしたいんでね。旅芸人として村の、そして民たちの暮らしぶりを見ておきたい」
「それであれば我が案内しよう。なんであれば公弟様にもお目にかかれるよう取り計らうぞ」
ドブリシャスは剣を鞘に納めるのを見て、他の二人も同じように剣をしまった。
「公弟はあの少年か? さっき少しだけ話はしたが」
「そうだ。あの奥の部屋、謁見に使っている部屋にいた少年であれば」
「まずはあの公弟がどの立場になるのかを知りたい」
「了解した」
ドブリシャスは棚にあるジャガイモを手に取り、樽の蓋の上に置いていく。
「この国はボンゲ公国で、公爵閣下は中央の城にいる。この国を支配しているお方だ」
次に小さいジャガイモを二つ、大きなジャガイモより離れた所に置いた。
「そしてここの村にいるのが公弟マイマミー様と、この辺りを領地にしている大臣のアクダイだ。アクダイは軽い悪事が露見してな、この辺境に追いやられたらしい」
「ほう」
「そして公弟マイマミー様だ。公爵閣下とは歳が離れた弟君で公爵位の継承権をお持ちなのだが、近頃公爵閣下にお子がお生まれになってな」
「世継ぎのために弟が邪魔になって、前線への士気高揚を建前に厄介払いをしたがっていると」
「そのようです。この戦い、前線におもむけばほぼ生きて帰ることはできないのでね……」
ドブリシャスは自虐的に笑いながら、ジャガイモをかき集めて麻袋にしまう。
「なるほど、民を虐げてその利権を実子に渡すため、公爵が計画したものということか。自分で手を下す事ははばかられるから、それなら敵を使って政敵までも消してしまおうと」
権力闘争ではよくある手だ。
「だが、中央からの目が行き届かないのをいい事に、大臣はこの地で今度は自分が権力者の頂点として君臨するようになったのだ。そこへ公弟がやってきたものだから」
「それは確かに居心地が悪そうだな」
「そういう事だ。だから我らとしてはなるべく味方を増やしたいが、相手を選ばなくてはならないのだ」
俺たちは改めて樽や椅子に座り、互いの考えを披露する。
「あの青黒マントたちは?」
「あれは公爵閣下の近衛隊だ。公弟様の護衛という表向きで来てはいるものの、奴らも自分たちが捨て駒にされている事は理解しているようだからな。公弟様を護衛するというよりは、地方で羽を伸ばしたいという程度の気持ちか、それとも捨て鉢にでもなっているかだな」
「公弟の直属はいないのか?」
「それはもう粛清されている。公弟様を影で支援しようと思っている連中はまだいるが、それも表立っての活動はできていない」
「ふむ……」
公弟、これをどう使うか。あの少年を大義名分として担ぐことはできるかもしれないが、それは少年としても傀儡の親玉が変わっただけ。
だがそれでも殺されないだけましとして考えるか。
こうして悪だくみが本人のあずかり知らぬところで進められていくんだろうな。
力持つ者と持たざる者の争いか……。
俺はドブリシャスたちから情報を聞きつつ、一旦はこの場から撤収することにした。
夜が明けたら、村の様子を見てみないことにはな。