権力を笠に着て
所詮は村の中。移動するにもたいして時間はかからない。
俺たちは青黒マントの男たちに囲まれながら夜道を歩いて行く。
「ここだ」
案内されたのは一軒の館。
敷地で言えばさっきの宿屋の方が大きかったかもしれないが、建物自体はしっかりとしていながらもところどころに配置された彫刻によって豪華さを増している。
「村長の館とかそんな所か」
「無駄口を叩くなっ!」
俺がつぶやいただけでも鋭い怒鳴り声が飛ぶ。
よかったな命があって。殴りかかってきたら返り討ちにしてやる所だったぞ。
「おいおいいいのか、俺たちは客なんだろう?」
俺は一呼吸置いてから聞いてみる。
「客だぁ? 勘違いするなよ旅芸人風情が! 広場で騒ぎになっていたから公弟様がおまえらをお呼びしたんだよ! 公弟様に失礼のないようにしていればいいんだよっ!」
マント男は怒鳴り散らしながら館の門を叩く。
「おい、例の旅芸人を連れてきたぞっ! 扉を開けろっ!」
すぐに扉が開かないものだからマント男が何度も扉を叩いている。それどころか蹴りを入れる始末だ。
ようやく反応したのか、扉ののぞき窓が開いて中から人の顔が見えた。
「うるっせぇなぁ。少し大人しくできねぇのかよ。ほれ、今開けるから……」
「黙れコラ、とっとと開けりゃあいいんだよっ!」
「判ったよ、真夜中なんだからそんなに怒鳴るなってぇの……」
中からかんぬきの外れる音がして、ゆっくりと扉が開く。
「初めからそうしていりゃあいいんだ。まさか門番ともあろう者が居眠りなんぞしていやがったりしねぇだろうなぁ?」
「うるせえっての。ほら、さっさと入りやがれ」
やかましい言い合いが終わる前にマント男たちが館の中へ入っていった。
「ほらっ、おまえらも入るんだよっ!」
マントの連中にせき立てられて俺とルシルも扉をくぐる。
門番の男はくたびれた顔で俺たちを見て、興味なさそうに扉の脇の椅子に腰掛けて目を閉じた。
「こっちだ、早く来い」
マント男が扉の男のことなど無視をしてどんどんと廊下を進んでいく。
俺たちはマント男たちに囲まれたまま廊下を進む。
「ここだ、少し止まってろ」
館の中のそれなりに大きな扉の前で俺たちは止まる。
「公弟様にお伝え下せぇ! 仕掛け師ども、いや、仕掛けしたちを連れてきやした!」
今度は間を置かずに扉が開く。
「あ、あの……」
中からは少年と思えるような男の子が顔を覗かせた。
マント男は少年を気にかけるでもなく俺たちを扉の中に押し込もうとする。
「な、なんだよ」
「うるさいっ! 旅芸人どもはとっとと部屋に入りやがれっ!」
俺たちの背中を押したマント男たちは部屋に入ろうとしないで扉を閉めようとしていた。
「なんだよいったい、公弟ってのはこの部屋か? お前たち連れてきてそのままほったらかしにするつもりか?」
「いいからおまえらは中に入っちまえ。俺らはこれで帰るからなっ!」
マント男たちは誰一人と部屋には入らずに扉を閉めてしまう。
「なっ……いったいなんだってんだ」
俺はぶつくさ言いながらも部屋の中を見渡す。
それなりに綺麗な部屋で広さもそれなり。さっきいた宿屋の寝室よりは広いかな。
「あ、あの……」
扉を開けた少年が上目遣いで俺たちを見る。
「旅の仕掛け師さんって……お兄さんたちの事?」
小首をかしげる少年。
身なりはこれまたそれなりに整っていて、貧しくはなさそうだ。
部屋の中にいたのはこの少年だけ。
「なあ君、公弟さんってのはいないのかい? あの豪華な椅子は今誰も座っていないけど」
「う、うん……」
少年は口ごもる。
「あのね、公爵様の弟っていうのは……」
少年は困った顔を赤らめて返事した。
まさかとは思うが、もしかしたらな……。
俺の予想は外れにくいんだが。