宴会芸とベテラン兵
あれよあれよという間に、少し拓けた場所へ連れてこられ、演台のある舞台へと案内された。
「これって……」
「も、もしかして……」
俺とルシルは互いの顔を見合わせる。
「いよっ!」
「待ってましたぁ!」
舞台と言っても木箱を並べてその上に板を渡しただけのもの。周りとは一段高くなっているだけだ。
その舞台を囲むように、青い装備や服に身を包んだ兵士たちが集まってきている。
「ここでも包囲されるみたいだな」
「そうとも言えるね」
この地方ではスキル自体が浸透していないのか、物珍しさで興味を引く程度の技として芸人扱いされているくらいだ。
「ゼロ、なにをやろうか?」
「そうだなあ……」
俺たちが舞台の上でひそひそ話をしていた所で、俺たちをここに連れてきた張本人が人の輪から出てきた。
「さあさ皆さん! お待ちかねの旅芸人さんが登場だ! 兵士としてもベテランでいろいろ人生経験を積んできた皆さんにも、きっと満足してもらえる仕掛け師のお二人さんだ!」
ドブリシャスは派手な帽子を被って声を張り上げる。
一気に場の空気が沸騰した。
「おおっ!」
「いいぞいいぞー!」
ドブリシャスが俺たちに向けてこぶしを握った。どうやら後は俺たちに任せるとでも言いたそうな顔だ。
「どうしようね、ゼロ」
「まあ、旅芸人として見られているのも面白いかもな。これはこれで楽しもうか」
一時は国王をやっていたりもするし、軍を率いていたこともあるからな。人前に出てなにかをする事自体は慣れたもの。
とすると出し物だよなあ……。
「よし、ルシル。まずはあれから頼む」
「いいよ。じゃあね、それっ!」
ルシルは右手を高く掲げて人差し指を点へ向ける。
「Nランクスキル雷の矢!」
スキルを発動させると、ルシルの指先から電撃がほとばしり空へと消えていった。
「おおーっ!」
「か、雷を生んだぞ!」
「光りが指先から……なにもないのに……」
驚いたりあっけにとられたりと、場内の兵士からどよめきが生まれる。
「そして~、Rランクスキル永久の火口箱」
ルシルの周りに小さな光りが浮かんで消えた。持続的に魔力を供給すれば長い時間火をともしていられるし、魔力を絶てばすぐにでも消える。
点いては消える小さな火が辺りに漂い、踊り出し、渦を巻く。
それを見てまた観客から大きな歓声が上がる。
「じゃあ次、ゼロは?」
「そうだなあ……Rランクスキル発動っ! 凍結の氷壁! 取り囲め氷の壁よっ!」
俺は氷の壁を舞台の回りに造り出す。
透明な氷に覆われて舞台全体が光っているようにも見えるだろう。
「おわぁ……」
「すげぇ」
観客が氷でできた壁に見とれている所でたたみかける。
「ルシル、氷の槍を上空へ!」
「うん、Rランクスキル氷塊の槍っ!」
ルシルが大きめの氷の槍を空へと発射した。
間髪を入れず俺のスキルが追う。
「Rランクスキル発動、雷光の槍っ! 氷の槍を貫けっ!」
俺の放った電撃が上空の氷の槍に命中すると、落雷に似た音と衝撃が辺りを包み、観客は驚いて耳をふさいだりうずくまったりする。
その観客たちの頭上から、粉々に砕け散った氷の欠片が雪のように降り注ぐ。
「うわっ」
「ひゃっ、ちめたっ!」
「でも、キラキラしていてキレイ……」
昼の光りに反射してうっすらと虹ができる中、細かい氷の粒が観客席に舞い降りていった。
「すごい……」
「これが仕掛け師か……」
「なにもないところから次々と……」
驚きをドキドキで観客たちは時を忘れたように舞い散る氷を見ている。
「以上だ。楽しんでもらえただろうか」
俺が舞台の上から周りにいる連中に声をかけた。
それをきっかけに、会場内が大歓声に包まれる。
「うおぉぉ!」
「すげぇ!」
「今まで見た中でも一番すごいぞ!」
喝采が鳴り止まない中、俺たちは舞台を降りた。
俺たちの所へドブリシャスや他の連中も集まってきて、拍手をしたり俺たちの肩を叩いたり握手を求めてきたりする。
「まさかこれ程とは! 兵たちも大喜びだが、我もここまでの仕掛けは初めてだ! いやあ、これはボンゲの本国でも比肩する者はいないだろうよ!」
「どうだろうな」
「間違いなしだぞ!」
「そうか? 付け焼き刃での演目だったが、楽しんでもらえてなによりだ」
「これで兵たちの士気も上がる。次の戦いにも力が尽くせるというものだよ!」
そう言えば、ここに集まっている兵士たちもそうだが、少し感じたことがある。
「なあルシル」
「なに?」
「なんだかここの兵士もそうだけど、ドブリシャスとか指示を出している連中は若いんだが……」
「あ、ゼロも思った?」
「ああ」
そうなんだ。ここに集まっている連中は、ベテランと言うよりも老兵。
年寄りが多いように思えた。