仕掛け師と見まごう程の
包囲された俺たち。とは言っても周りを囲んでいる奴らは二十人はいなさそうだ。
「どうするゼロ、厄介なことになるくらいならいっその事……」
「まあまあ。誤解がなくなれば俺たちに刃を向けようなんてしないさ」
俺はルシルをなだめながらドブリシャスに向かってもう一度手のひらを見せる。
「俺たちに戦うつもりはない。ただ、無抵抗のままではいないからな」
「な、なんだと……。だがその女の服! ガンゾの貴族が着るような服ではないかっ! 敵国の娘であれば捕らえて交渉材料にするのが戦国の倣いっ!! 神妙に縛に就けっ!」
「うーん、俺は戦うつもりはなかったんだよ。これは本当の話。なんでかってさ……」
わめいているドブリシャスを無視して俺は話を続ける。
「戦闘になったら面倒じゃないか」
俺は剣を抜いて、直後に鞘へ納めた。
「なにを……うがっ!?」
奴らの剣は全て刀身が折れて刃の部分が地面に落ちる。
衝撃に耐えられず、剣自体を放してしまう奴もいた。
驚くドブリシャスたち。それもそうだろう。俺は今の一瞬で奴らの剣を叩き折ったのだから。
「て、てて抵抗するかっ!!」
「もういいよ、邪魔だから力の差を見せつけようとしただけだ。これで俺に手向かう無意味さを知っただろう?」
「ぐ、ぐぬ……」
俺の剣技と力量の差。それをまざまざと見せつけられたんだ。奴らもいい加減包囲を解いてくれるだろう。
「ぐぬぬ……。こ、これはきっとなにかの間違い、いや、仕掛けがあるに決まっているっ!」
ドブリシャスは目をキョロキョロさせながら周りの兵士たちを見る。
「そうだ、隊長の言う通りだ……」
「きっとなにかを仕込まれたのだ……」
「俺たちは夢を見ているんだ……」
兵士たちが自己暗示をかけようとするかのように、自分たちに都合のいい妄想をつぶやき始めた。
「ゼロ、こいつら駄目だよもう。頭弱すぎるよ」
あきれ顔のルシルがそう言うのも判る気がする。
「俺の力が異次元過ぎて、頭が追いついてこないのかも知れないな」
「もう疲れたよ~、相手するのもやだよ~」
「そうだだをこねるなよ。こいつらが包囲を解かなければ力尽くで通ればいいだろう?」
「そうだね、そうしようよ。あ~あ、今日は屋根のあるベッドで寝られると思ったのになあ」
俺たちが包囲網を分け入って通ろうとした時だ。
「お待ちくだされっ!」
ドブリシャスたちが一斉に片膝を付いて俺たちに頭を下げる。
「うえっ、なんだこいつらいきなり……」
俺も思わず身構えてしまう。
「あいや待たれよっ! おぬしたちをガンゾの刺客呼ばわりしたことは申し訳ない! 赤心を見せるためにも切腹して詫びよう!」
ドブリシャスはいきなり服をめくって腹部を見せる。
そして折れた剣を逆手に握り、その腹に剣を突き立てようとした。
「ちょちょちょっ、待てよ! いきなりそんな事をされても、別に俺はちっとも嬉しくないし!」
「そうだよ、死ぬなら死ぬで勝手に死ねばいいけど、それをゼロのせいにするような言い方は気にくわないな!」
ううん、ルシルの論点もちょっとズレているような気もするが、まあいい。
ともかくだ。
「俺の剣技が冴えているかどうかはさておき、そんな所で腹を切った所でなんにもならないだろ? 詫びたいのなら俺たちを町か村か、休める所へ案内してくれよ。それでいいからさ」
自分の腹に剣を突き刺そうとしていたドブリシャスは、剣を落として俺の顔を見る。
その目には涙が溜まり始めていた。
「お、お言葉かたじけないっ! 承知したっ!! 我らが近くの村へご案内いたしますゆえ、なにとぞここでの事はご容赦をっ!」
「いいから判ったから。で、休める所へ連れて行ってくれるんだろうな?」
「はいっ、それはもちろん!」
ドブリシャスは嬉々として答える。
「仕掛け師にお目にかかれるとは望外の喜びっ! きっと村の者もむせび泣いて喜ぶことでしょう!!」
へ、仕掛け師?
俺は一抹の不安を抱えて、ドブリシャスたちの後ろを付いていった。