表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

720/1000

むかつく女で手切れだよ

 金髪の長い髪をなびかせ天幕に入ってくる女。周りの連中はかしこまって頭を下げていた。


「そこの男、自分の連れが可愛い格好になっているんだ、そこは褒めて然るべき状況だ。それをアホヅラを下げて突っ立っているなど、男子の風上にも置けんなぁ!?」


 偉そうな物言いで入ってきた女に俺はにらみを効かせる。


「なんだと? いきなり入ってきてその言い草はなんだ?」


 俺はきつい視線をその女に投げかけた。


「あっ! くぅん……」


 一瞬女はたじろいだ風だったが、身震いをしながらも足を踏ん張ってこらえる。


「ぬっ、お、お前っ、ななな、なんだっ! なぜ自分の天幕におるのだっ!」

「ふむ? ああ。女の士官用天幕だったな。もしかしてお前がこの天幕の主か?」

「ふっ、くぬぅ……そ、そんな目で自分を見るなっ!」


 その女は俺から視線を外して偉そうに吠えた。


「こここ……」

「ニワトリかお前は」

「ここ、ここは自分の天幕であるぞ! お前のような、あ、だなっ、おとこ、男っ、天幕っ!!」


 女がたどたどしく話す所でコナモが落ち着かせようと横から声をかける。


「落ち着いてください、天幕に入っているのは確かに男ですが、これは下男も同じ、取るに足らん奴ですから、お気になさる事は……」


 コナモの言い方に引っかかる所があるな。

 俺はコナモをひとにらみすると、コナモは萎縮して言葉を止めてしまう。


「そ、そうか、こやつは下男みたいなものか。召使いみたいなものであれば、自分の天幕に入っていても、ま、まあ許してやろう。それどころか便利に使ってやろう。うむ、それがよい!」

「なに勝手に決めてんだ。俺はルシルがドロドロから解放されればそれでいいんだ。お前らの相手をしてやる義理はないな」

「ななな、なんという口のききようか! 下男の分際でっ!」


 女は右手を振りかざして俺を叩こうとする。

 もちろんその手は俺の顔には届かない。振り下ろされた所で俺の左手がそれを阻止したからだ。


「なっ、なにをっ、放せっ!」

「ああっ、放してやるよっ!」


 俺は力任せに女の腕を押し出して突き放すと、女は天幕から転げ出るようにして尻餅をついた。


「こっ、こやつっ! 自分に逆らうのかっ!!」

「うるせぇっ! この天幕を使った事については感謝もするが、だからといって好き勝手に罵詈雑言を浴びせられたり殴られたりするつもりはないんでね」


 俺はルシルの手を引いて天幕を出る。


「気分が悪くなった。こんな奴にとやかく言われるためにここにいるんじゃないからな、行くぞルシル」

「あ、うん……」


 ルシルは自分の装備を抱えてまとめると、俺の後についてきた。


「あ、ああ……」


 尻餅をついた女はなにかを言いたそうだったが、俺は気にせず駐屯所を出て行こうとする。

 俺たちに向かって手を伸ばしている女を放っておいて俺たちは歩き続けた。


「ちょっ、お待ちを……」


 コナモがなにかを言いたそうだったが、俺がひとにらみすると口をつぐんだ。


「悪いな、世話になった。恩着せがましい事を言うのは俺の好みじゃないが、これはミミズ退治の礼として受け取っておく」

「は、はい……」


 俺の台詞にコナモも言葉が詰まる。

 多分あの女は天幕の主という事だと、今まで前線には現れていない上級士官だったのだろう。

 コナモにしてみれば今までまったく来なかった上級士官が突如現れて悪態をついたものだから、どうしたらいいのか判断に迷ったのだろうが。


「でもゼロ、嫌だったらやっつけちゃえばよかったのに」


 ルシルはあっけらかんとそう言ってのける。


「だがな、別に命を狙われてる訳でもないし殺すには至らないだろ。だが、義理もないから我慢するいわれもないがな」

「まあそうね。このままここにいたら、面倒事に巻き込まれそうな気もするしね」

「そういう事」


 俺は周りの連中ににらみを効かせつつ、ルシルと一緒に駐屯所を後にした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ