惨状の王都に参上
「ついに来たか……これもけじめだな」
途中いくつかの町や村を魔族から開放しつつ、俺たちは王都が見える丘へ到着した。
「予想はしていたが、町の反対方向には魔族の軍団が見えるな」
「そうですね、かなりの数です」
ヒマワリは遠くを見ておおよその戦力を数える。
「五千、それくらいはいそうです。あたしたちは百名足らず、王国の兵士たちはどれだけいるかという所ですが……あ、町の門を開いて王国軍が突撃します! えっと、その数およそ二千」
「魔族の半分以下か。それでも籠城戦よりは野戦を選ぶか」
「そのようですね、今戦端が開かれました」
籠城戦は守備側の兵力がある程度少なくとも持ちこたえる事ができる。だがそれは外部要因があってのこと。守備側の援軍が期待できるかそれとも攻撃側の兵站が途絶えるか、そうでなければ勝つ事はない。
「ゼロさん、どうします?」
「このまま魔族側が勝って町を荒らされては困るが……ここは作戦通りに行こう。戦闘が始まってしまっては、混戦の中に入ってもこちらの戦力では効果が薄いが、生かせる命をみすみす失う事もあるまい」
「はい、では全軍突入します」
俺たちは丘から駆け下りる。
魔族の軍団としては兵力が多いから平地に展開して反包囲の形で攻めかかる。王国軍はその作戦に乗ってしまった感じはある。
「あえて不利な状況に身を投じるとは、何か考えがあっての事か」
だが王国軍は闇雲に突進を続け戦力を減らしていく。
魔族の軍団は魔族といっても動く骸骨と泥人形が前線の主体であり、魔力があればいくらでも生成できる。魔力の供給が間に合えば破壊されても次から次へと作り出されるのだ。
「ゼロさん、王国側はこれでは……」
「そうだな。間に合えばいいが」
俺は共に走る兵士たちに声をかける。
「旗を掲げよ、雄叫びを上げよ! 我こそは全ての軋轢を無とする者、始まりの使者にして平和の体現者、勇者ゼロの軍である!」
兵士たちがそれに応じた。
「勇者ゼロ! 平和のために!」
衛士の契約者が発動し兵士たちに力がみなぎってくる。
これで少しでも生存率が高まればいいが。
「行くぞ、突撃っ!」
「おおーっ!」
俺たちは一本の矢となって魔族軍の脇腹を攻める。
「魔族の者共よ、退けぃっ! 今の倍以上のお前たちを一人で倒した俺が、勇者ゼロが戻ってきたぞ!」
俺は走りながらスケルトンをなぎ倒し、ゴーレムを破壊する。
王国軍の貴族が乗っていたであろう馬が戦場で走ってくるのを捕まえてまたがる。
「おお、援軍か……」
潰走間近になっていた王国軍に生気が戻ってきた。
「王国軍よ、そなたらも退けっ! 城門を固く閉ざし守りに徹せよ! この声が聞こえたならば疾く行けっ! あたら命を無駄にするなっ!」
俺は馬で駆けながら王国軍と魔族軍を分断にかかる。
「双方退けっ! 退けぇいっ!」
俺が戦場の中心に雷光の槍を打ち込む。
稲光と共に爆発が起き、戦場に大きなくぼみができる。
「一時退却」
魔族軍から魔法生物たちに指令が飛ぶ。
スケルトンたちは一瞬動きを止めたと思うと、きびすを返して整然と後退する。
「退け、退却だー!」
王国軍は戦意喪失し、かろうじて踏みとどまっていた兵士たちも我先にと城門へ駆け込んでいく。
一旦これで、城門前の平野での戦いは区切りが付いた。