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戦争以外の戦い方

「うわぁ、べっとべと……」


 ルシルの一言が物語っている。

 ジャイアント・アースワームと言っても俺が前に戦った奴とは違う種類だったらしく、体液に酸性も毒性もなく、ただぬめぬめべたべたするだけだった。


「それにしても、数だけはたいしたもんだったな」


 俺たちは襲い来るジャイアント・アースワームをなぎ払い討ち滅ぼしたのだが、それでもコナモたちの部隊に少なくない被害が出ている。


「それでも応援してくれたお陰で、ワイらは全滅せんで済んだんだ。そこは礼をさせてもらいます」


 肩で息をするコナモたち。

 流石に数が多いと、俺とルシルだけでは間に合わない所も出てくるものだ。


「手伝うつもりはなかったが、それはあんたらの戦争についてだからな。怪物退治なら助けてやってもいいだろうさ」

「それは……本当に助かりますよ」


 コナモたちは深々と頭を下げる。


「それより怪我人の手当が先だろう」

「あっ、はい!」


 慌ててコナモたちも負傷兵の収容に走った。


「うぅ~……」


 バタバタしているコナモたちの脇で女の子座りして嘆いているルシルは、全身ジャイアント・アースワームの体液まみれだ。

 頭からヌルヌルとした半透明の液体に全身を覆われて、半泣きしそうな顔で身体のぬめぬめを取り払おうとしているが、ぬぐってもぬぐってもヌルヌルは取れない。


「うえぇ……」

「ルシル泣くなよ、ほら、水流を作りだして洗い流せばいいじゃないか」

「う、うん……Rランクスキル、海神の奔流(ウォーターバースト)ぉ……」


 ルシルは自分に向けて水を放出する。出力はそれなりに弱めているが、それでも大量の水がルシルからぬめぬめを洗い流してくれた。


「うぅ……服の中までヌルヌルするよぅ……」

「う~ん、ここで脱ぐわけにもいかないしなあ」


 俺たちが困っている所に、コナモが乾いたタオルを持ってきてくれてルシルにかける。


「こちらへ、女性士官が使う天幕があるんで、それを使ってください。下士官ですがワイらの隊にも女性兵士がいますんで」


 そう言うと、コナモは近くにいた兵士を呼ぶ。


「コーノミヤ、こちらのねえさんを女性士官用の天幕へ案内してくれ。中で清拭せいしきして着替えを用意してくれるか」

「かしこまりました」


 コナモに呼ばれた兵士は機械的に答える。

 短く刈り込んだ茶色い髪は男の子にも見えるが、鎧を着ていても判る体型は大人の女性のそれだった。


「お客人、こちらへ」

「うん……」


 コーノミヤという女性兵士に連れられてルシルが天幕に入っていく。俺もそれに付いていこうとするが、コナモに止められた。


「別に俺だったら入ってもいいだろう? ルシルの裸は誰よりも知っているのだから」

「えっと、ワイらも兵士の中では男女の区別はないんだけど、それは下級の兵士だけでなあ、上級士官ともなると天幕も個人の物が与えられるんだ」

「それがどうした。ルシルと今一緒に入った女兵士以外に誰かいるとか、ルシル以外の女性が着替えていると言うのなら話は別だが」

「えっと、あの天幕は中央からの使者で、アカシャ様の天幕でして。男子禁制となっとるんですよ」


 天幕が男子禁制って。でも設営するのは男だったりもするだろうに。


「ならそのアカシャ様ってのが中にいるのか?」


 コナモの反応からすると、アカシャって言うのは地位が高いとか権力を持っているとかそういう扱いなのかな。


「え、えっと、今はアカシャ様はご不在ですが、男が天幕に入った事が知れるとですな、ワイらがなにを言われるか」

「そんな怖い奴の天幕ならルシルに使わせなければいいだろうに。空いている天幕はいくらでもあるようだからな」

「え、ええ、まあ」


 俺たちが口論している所で天幕からルシルが出てきた。


「早っ! って、その服は?」


 ルシルは簡素ではあるものの丁寧にあつらえられた服を着ている。白を基調としたブラウスに細かい刺繍を施したベスト、ゆったりとした大きめのスカートは光が当たると脚の線がうっすらと透けて見えるくらい薄い生地で作られていた。


「うんとね、中にあったやつでコーノミヤさんが選んでくれたの」


 少し気恥ずかしそうに上目遣いで俺を見る。


「お、おお……」


 思わず返事に困ってしまったが、俺の顔を見てルシルは少し照れたような顔になった。


「おいおい、そこは褒めてやるべきだろう。こんなに可愛い彼女がいるんだからな!」


 俺たちの背後でハスキーな声がする。

 振り向いた俺の目には、仁王立ちしている長い金髪の女性が飛び込んで来た。

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