勧誘大作戦
コナモは俺たちにこの戦へ参加して欲しいようだ。戦場をうろついているような奴に見えるわけで、俺たちを傭兵と思っても当然だろうな。
「だが悪いけど俺たちは別にどこへも所属しようとは思わないし、手伝うつもりもないんだが」
「そうよ、私たちこの戦いには興味ないし、ここから早く抜け出したいだけなんだから」
コナモに対して俺とルシルが矢継ぎ早に断りを入れると、コナモは悲しそうな顔で俺たちを見ていた。
「そうだよなあ、にいさんらの雰囲気はそこいらの若者と全然違うもんだったからのう。一緒に戦ってくれたらワイらも助かる思ったんだけどなあ」
あからさまにがっかりと肩を落とすコナモ。
「まあそうしょげるなよ。俺たちも別に相手が誰かも知らないし、そもそも失礼ながらあんたらの辺境伯の事も知らなかったんだから。この状況でどちらかに肩入れしても、なあ」
ルシルの方を見ると、ルシルもうんうんとうなずいている。
人に出会えたのはよかったが、いきなり戦いに巻き込まれるというのもごめんだからな。
それに、普通の人間同士の戦では、俺が加わった陣営が勝ってしまう気がするから、そうそう参戦はできないと思っている。
「そうかぁ、それなら仕方がないなあ。ワイらの仲間になれんと言うのであれば……」
どうする、敵の間者と思って俺たちを消すか?
「これ以上引き留めても悪かろう。ワイらの軍を案内するわけにもいかんが、駐屯所から出る事は許可しよう」
「そうしてくれると俺たちも助かる」
ここで戦闘になっても切り抜ける自信はあったが、ないに越した事はないからな、無駄な争いってものは。
「そうなれば早速にも出て行こうと思うが」
俺が椅子代わりにしている輪切りの丸太から立ち上がった時だ。
駐屯所に息せき切って駆け込んできた奴がいた。
「コ、コナモ隊長、虫が! 虫が出ましたっ!」
「なんだとっ! くそっ、こんな時にっ!」
コナモは押っ取り刀で報告に来た兵士と駐屯所から出ようとする。
「すまんな、ワイらは仕事ができた。にいさんらをほっといてしまうようだがこれで失礼するっ!」
コナモは脇目も振らずに天幕を出て、辺りにいた兵たちに指示を飛ばす。
俺たちも天幕を出るが、そこはもう蜂の巣をつついたような騒ぎになっていた。
「なあ、虫ってなんだ?」
「すまん、今はにいさんらに構っている時じゃ……」
コナモがそこまで言った時だ。
「ジャイアント・アースワームが出たぞっ!」
「何匹も出てきやがった!」
「前線が崩壊するっ! 援軍を、応援をよこしてくれっ!」
兵士たちの叫ぶ声の奥には戦いの喧噪と悲鳴が聞こえる。
「ジャイアント・アースワームか」
俺のつぶやきにコナモが反応した。
「にいさんらは巻き込まれただけだ、後はワイらがどうにかする! にいさんらはにげぇや!」
コナモは剣を抜き払い、近くに湧いて出たジャイアント・アースワームの頭に斬りかかっていく。
「どうするゼロ」
ルシルが俺の顔を見る。
「お前、判ってて聞いているな?」
「まあね」
なにもかも理解していると言わんばかりの笑みを見せた。
俺はため息を一つ吐く。
「別に恩義がある訳でもないが……」
腰に差していた剣を抜くと、剣の継ぎ目から魔力の光りがほとばしる。
「目の前で助かる命をむざむざと失うのは気分が悪いからな」
ゆっくり間合いを詰めて剣を一閃すると、ジャイアント・アースワームの身体が縦に真っ二つとなって裂けた。
「ほ、ほはぁっ!?」
巨大ミミズと戦っていたコナモは目の前で敵が簡単に切り裂かれていく様を見て、呆けたような顔をする。
「仕方ない、ひとまずこいつらを片付けてからだ」
俺はルシルと共にジャイアント・アースワームの駆除に取りかかった。