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赤の駐屯所

 コナモたちに先導され、俺たちは彼らの駐屯所へ向かう。

 戦場は両軍の兵士が入り乱れている状態だったのだろう。着ている服も二系統に分かれていて、コナモが着ている赤系の服と、それとは別の青系の服を着た死体がそこかしこに転がっていた。


「兵士の死体は回収しないのか?」

「ワイらもそれはな、したいんだけどな。死体を回収したい、なんつってな。なっはっは」


 コナモがぎこちない笑いで答える。

 不謹慎な話題を無理矢理笑いにしようというのも、少しでもこの凄惨な場を和ませようとしているのか。


「面白くない」

「こらっ、ルシル!」


 ボソッとつぶやくルシルを俺がたしなめる。


「えーんじゃえーんじゃ。ねえちゃんも突っ込み鋭いなあ!」


 コナモは眉を八の字にして困りながらも笑みを絶やさない。


「まあ、したくってもできんのだけどな。ワイらもそこまで余裕がある訳じゃなくてな。こいつらには悪いと思ってるんだ。こんな所に野ざらしなんてなぁ……」


 少しだけコナモの表情が曇る。


「そうか、激しい戦いだったみたいだな。若そうなのに大変な事だ」


 そのコナモは苦労で刻まれた皺が目立つが、その見た目は若くまだ二十代前半に見えた。


「そうだろう? ワイらも必死だったんだぜ。それとな……」


 コナモは俺にそっと耳打ちする。


「ワイ、これでもまだ若くてな、隊のみんなに馬鹿にされんよう、すこ~しでも偉そうに見えるようにな、ヒゲ生やしてんだ」

「そうか、それもまた苦労しているんだな」

「ほんとほんと。だーっはっはっは!」


 戦場にいるためか、無精ヒゲだけではなく生々しい切り傷や土埃で顔が汚れていて、それがかえって戦いの激しさを物語っている。


「ワイら偵察部隊は、敵の動きを探るんのも仕事なんだよ。いつ大軍が押し寄せてくるか判らんからなあ」

「そうなのか。でも結構人数はいるんだな」

「そりゃあ部隊だからなあ。何人いるかは言えんけどな」


 コナモが言うように俺が見ただけでも十人くらいはいるだろうか。どこからか現れて合流する者もいれば、報告を済ませてまた偵察に向かう奴もいて、入れ替わり立ち替わりでここにいる人数は常に増減しているようだったが。


「そうだな。あんまし部外者にいろいろと話はできんが、こうやって戦場やその周辺を探ってな、敵がこんか、味方でまだ息のある奴はおらんか、確認しとるんだ」

「そうか」


 確かに何人かは担架を運んだり怪我人に肩を貸したりしていた。息のある味方でまだ助けられそうな奴はこうして偵察と併せて収容しているようだ。


「一回りした後だからな、ワイらもこれから駐屯所へ戻ろうと思っとった所だ」

「そこで俺たちと出くわした、と」

「そういう事。ほれあの先、見えてきたで」


 コナモが指さす所に天幕がいくつも建てられていた。

 慌ただしく動き回る兵士たち。コナモと同じように赤系統の鎧を着ている者が多い。

 ひるがえる旗も、赤地に紋章が縫い込まれていた。


「ここがガンゾ辺境伯の前衛部隊、偵察部隊の駐屯所だ」


 俺たちはコナモに案内されて一つの天幕に入る。

 その中は戦場らしい荒れようというか、荷物が雑多に置かれている状態だった。


「ちっと汚れとるがな、まあ気にせんと適当に座ってくれ」


 コナモは丸太を輪切りにした塊を椅子代わりにして座る。

 俺とルシルも適当な丸太に腰を下ろした。


「なあにいさん、あんな所をうろうろしていたんだ、折角だからワイらに手伝ってくれたりせんかのう?」

「手伝う?」

「ああ、見たところ歴戦の戦士に思えてな、もしかしたらワイよりお若いんかって思うんだけど、それでもワイらで持っとらんなにかを感じるんだ」

「ほう……」


 偵察部隊という事は、ある程度目利きができるとでもいうのだろうか。

 笑っているコナモの顔の奥で、目が怪しく光っていた。

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