新たなる旅立ちへ
俺は小屋をまとめて一つにすると、それを背負って辺りを見る。
「他、置き忘れている物はないな」
「うん、大丈夫よ」
「全部持ったなん」
ルシルもロイヤも自分たちの荷物を持って、明るく答えた。
荷物と言っても草原のあちこちから拾ってきた物がほとんどだが、それもロイヤの手にかかれば道具や家具に早変わりだ。
折角造ってもらったんだからな、持っていける物は移動先でも使いたい。
「それでゼロ、どこに行くの?」
「一応日が昇る辺りを東とみて考えると、まずは朝日に向かって進もうかと思う」
「そうね、目安としてはいいかもね」
俺とルシルの会話を聴いて、ロイヤが不思議そうに俺たちを見る。
「どうしてお日様が昇るの、東なん?」
「え、ああ。ロイヤは精霊界から来たから知らないと思うけど、地上界では太陽が東から出てきて明るくなって朝になるんだ」
一応は俺が知っている程度の説明はしてみた。
「ふうん、なんで東なん?」
「うーん、そうだなあ」
聞かれるとそれがどうしてなのか、俺もよく知らない。慣習的に、太陽は東から昇って西に沈むと言われていた。
「それはねロイヤちゃん」
悩む俺たちにルシルが助け船を出してくれた。
「元々この世界を創った神様がね、その神様たちの世界のルールをこの世界にも当てはめたのよ」
「そうなんかルシルちゃん!?」
おいおい、バイラマの話とか大丈夫か?
それこそ世界の根源というか、根底から崩しかねない危険な話かもしれないぞ。
「そうなの。神様の世界の事だからね、私たちにもよく判らないけど。そういうものなのよ」
「ふ~ん、そういうものなん?」
「そういうもの」
なんだかルシルとロイヤは二人で通じる物があったのか、互いの顔を見ながらクスクス笑い始めた。
「ともかくだ。ルシル」
「うん、まだ思念伝達に反応は無いよ」
「そうか」
ルシルは定期的に思念伝達を投げてくれているようだった。
俺の意図を汲んで、それを答えてくれたんだ。
「ロイヤ、精霊界へ行く手段はどうだ?」
「う~ん、それなんだけどなん、ルシルちゃんの杖に付いている宝玉、これが光ってくれないなん」
「そうなのか?」
ルシルの持つ銀枝の杖に付いているいくつもの部品。宝玉も鈴なりに付いているのだが、異世界に移動するための宝玉が確かに光を失っている。
黒くくすんでいるようにも見えた。
「ちょっと見てもらう事ってできるかな?」
「うん、いいなん」
ルシルが杖をロイヤに見せようとするが、俺はそれを手で阻止する。
「大丈夫か? ロイヤが触れるとコバルトに変わってしまうんじゃ」
「あ」
「あ」
危なかった。ロイヤはドゥエルガルと呼ばれる種族で、地上界ではコボルトとも呼ばれている。厳密には違うらしいが、まあいいとしよう。
そのコボルトは、銀に触れるとコバルトという金属に変異させてしまう。したいしたくないに関わらず、だ。
どうやら二人はそれを忘れていたらしい。
「危なかったなん」
「そ、そうね。銀枝の杖が機能を失ってしまうかもしれなかったわね」
二人は汗を拭く仕草をして気持ちを落ち着かせる。
「この杖の能力を確認する事ができれば、精霊界への移動も可能になるだろう。そしてルシルの思念伝達が誰かに届けば、地上界でもどこかにはたどり着けるはず」
「うん、きっとどこかに誰かはいるよ」
「ああ」
俺は返事をしながら超覚醒剣グラディエイトを抜き払う。
荷物をゆっくりと地面に置き、剣を構えた。
「ゆっくり、刺激をしないように、ゆっくりだ」
俺の言葉で後の二人も臨戦態勢を整える。
「前?」
「ああ、地面に……」
俺が小声で話しかけている時に、地面が盛り上がりそこから巨大なミミズが飛び出してきた。
「ジャイアント・アースワームか。それにしてもでかい……」
地面から飛び出した部分だけでも俺たちの背よりも高い。身体が地面に続いているからどれだけの長さがあるか判らないが、頭の先に付いている大きな口は牛も一呑みにできてしまいそうなくらいの大きさだ。
その口の周りには剣のように鋭い牙が幾重にも生えている。
「あんなのに噛みつかれたらズタズタになっちゃうね」
「まあ、でかいだけだろう。所詮はミミズだ」
「そうね」
俺は右手に剣を構え、左手に魔力を集中させた。
「行くぞっ、こんな奴一瞬で……SSランクスキル発動、豪炎の爆撃! 焼き尽くせっ!」
俺の左手から放たれた炎の塊がジャイアント・アースワームに当たって爆発する。
のたうち回るジャイアント・アースワーム。
「ゼロ危ないっ! Rランクスキル魔法障壁!」
ルシルが半透明の壁を構築する。そこに浴びせられるジャイアント・アースワームの体液。
地面に落ちた体液は、草を溶かして焦げ臭い煙を放つ。
「あ、危なかった……。なるほどこいつは魔法生物でもあるのか……」
巨大ミミズを倒した俺たちは、まだ戦闘態勢を解除しない。
「それに、一匹だけじゃないみたいだからね」
「ああ」
地面がいくつも盛り上がり、そこからジャイアント・アースワームが何匹も飛び出してきた。
「これだからゆっくり遊んでいる暇もないってもんだ!」
「でもなんだか楽しそうじゃない!?」
「まあな!」
俺はスキルで防壁を作り、それを盾にしてジャイアント・アースワームの群れへ飛び込んでいく。
まだまだこの世界は飽きさせてくれないらしいな。