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幽体離脱

 まぶたを閉じていても感じる明るさ。土の匂いがする。

 地上、どこかの地上に俺は横たわっていた。


 風は優しく流れているようで、草がなびいている音が耳に入ってくる。

 俺には感じられないけど、きっと暖かいんだろうな。


「ゼロ……」


 ルシルの女の子らしい丸みを帯びた少し高い声が葉擦れの音に加わる。


「身体が……あれ?」


 思考もゆっくりだが、それ以上に身体が動かない。


「やっぱりゼロも? すごくね、疲れちゃったの」

「ああ、疲れか。確かに痛みや苦しみは感じられない。でも指先ですら動かせないくらいの疲労感はあるな」

「目、開く?」

「まぶたを開くのもおっくうで、目を開けるって事自体忘れていたような気がするよ」


 ルシルにうながされてゆっくりと目を開ける。


「ほう……」


 俺は仰向けに寝転がっているんだろう。真っ正面に青い空が広がっていて、ところどころフワフワと柔らかそうな雲が漂っていた。

 緩やかな風に乗って雲が少しずつ動き、形を変えていく。


「遠くで、鳥の鳴き声かな……聞こえるね」

「そうだな……」


 徐々に意識が明瞭になっていき、それに合わせて自分の身体が意識化に置かれるような気がした。


「動けるか、ルシル」

「ちょっと今は難しいかな……首を動かすのも難しい感じ」

「そうか……」


 俺は起き上がろうと力を入れる。


「あっ」


 身体を起こそうと手を地面に押しつけようとした時、俺の手から中身が抜ける感覚に襲われた。


「えっ!?」


 手には地面に触れている感覚がある。

 それとは別に、手が持ち上がるイメージが俺の中で生まれた。


「どういう事だ……」


 その感触をきっかけに、俺の中身が浮かび上がる感覚に襲われる。


「おわっ!?」


 世界がぐるっと回った。急に全ての感覚が薄皮一枚で覆われたように、おぼろげに変わる。

 そして全身を覆う浮遊感。


「え!? あれ!?」


 俺がいる。

 今俺の目の前には、さっきまで見えていた空の風景ではなく、地面を見下ろしている状態。

 草原に俺が仰向けで寝転がっていて、その横にルシルも同じように寝ている。


「俺を、見ている? どういう事だ!?」


 俺の心がざわつく。


「ゼロ、落ち着いて。ゆっくり深呼吸しようか」


 ルシルと目が合う。

 俺が見ている俺の隣で寝ていたルシルが俺に話しかけてくる。


「えっ、あっと……」


 俺はルシルの言う通りに、呼吸を落ち着かせ、そして指先の感覚、背中の感覚、全身の神経を研ぎ澄ませていく。


「呼吸して、力が全身に届くように頭の中で考えるの。ゆっくりでいいから」

「お、おう」

「そして身体と寄り添う感じ。身体に戻る感じで」


 俺は目を閉じ、感覚を引っ張る。寝転がっている俺の感覚を持ってくるようなイメージだ。


「あ……」


 急激に引っ張られる感じと、直後に訪れる全身を雷で打たれたかのような衝撃。


「うっく……」

「深呼吸して、ゆっくり……」


 ルシルに言われて呼吸を思い出す。


「ふぅ……」


 徐々に感覚が戻ってきた。そして気持ちも落ち着いてきた気がする。


「どうしたんだ、俺は」

「冥界にいた時間が長かったからかな」

「えっ?」

「肉体と魂が離れやすくなっていた、って感じかな」


 魂の乖離かいり

 肉体から魂が抜けてしまうって事か。


「でも落ち着けば大丈夫だよ」

「そ、そうか?」

「うん」


 ルシルは寝転がりながら俺の側へやってくる。


「ほらね」


 ルシルが俺の顔に手を添えると、ルシルの手の感触が俺の頬に伝わってきた。

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