冥界での存在感
ヴラン城が崩壊する。小刻みに揺れが続き、壁にヒビが入っていく。天井から粉のような物が降り始めた。
「ドラクールがこの城を支える力になっていたんだろう」
「魔力の供給が切れて、城を維持できなくなったのね」
「恐らくな。いや、この城自体がドラクールが具現化した物なのかもしれないが」
「だとしたら、うわっ!」
床が崩れ落ちた。ぽっかり空いた穴の奥は、暗闇が渦を巻いている。
「なんだこれ……吸い込まれでもしたらどうなることやら……」
「冥界ってなにが起きてもおかしくないと思ったけど、これはちょっと怖いね」
「とにかく逃げよう、この城から出よう!」
「うん!」
俺たちは手をつないで部屋を出る。俺たちが出た瞬間に部屋自体が崩れ去った。
「うわっ、あぶねえ!」
「急ごう!」
廊下を走り、いくつもの部屋を越える。
窓でもあれば外に飛び出したりもするのだが、元来た道を帰るくらいしか思いつかなかった。
「いや、待てよ」
「どうしたのゼロ、崩壊が近づいてくるよ!」
「ああ、ちょっと思ったんだが」
俺は剣を抜いて構える。
「敵?」
「いや。そうじゃないが……SSSランクスキル発動、重爆斬! 砕け散れっ!」
眼前の壁にスキルを放つ。俺の放った剣技で城の壁が吹き飛んだ。
「どうだ、これなら」
壁に大きな穴が空いて壁の向こうが見える。
いくつかの部屋が貫通されて、更に向こうが見えた。
「これなら直線距離で突き進める」
「そうだね、すぐ外に行けるよ!」
俺は壁を破壊しつつ真っ直ぐ駆け抜ける。どこへ行くにしてもこれならすぐに城の外へと行けるだろう。
「とっとと……むぅ!」
「ふにゃんっ!」
俺が急に立ち止まると、ルシルが鼻先を俺の背中にぶつけてしまった。
「い、いひゃい……」
「すまん」
「どうしたの?」
俺はルシルをかばいながら、広間に見える物を剣で指し示す。
「うわ……」
そこには数体の巨大なサソリ人間がいた。人間といっても、サソリの身体人間っぽい顔のような物が付いているだけで、その顔が表情を変えたり話をしたりという事はないのだが。
「ギルタブリル……」
「冥界の門番、だよね」
「ああ」
こんな所で厄介な敵が現れたな。
だが、今の俺はエナジードレインを食らったままの俺じゃない。
「蹴散らして先に進むぞ」
「うん」
俺は広間に飛び込み、近くの奴に斬りつける。
不意を突かれたにしても、一体目は簡単に手足を切り落とせた。
「柔らかい訳でもないはずだが……」
「やっぱりゼロの力が戻ってきたんだよ」
「そのようだな!」
俺は近くにいる奴を片っ端から斬り倒し、次々と死体の山を築く。
そのたびに、ギルタブリルの身体から紫色というか黒というか、奇妙な煙が立ち上っていた。
「ねえゼロ」
「ルシルも気付いたか」
「うん!」
俺がうながすと、ルシルは銀枝の杖を振りかざして念を込める。
銀枝の杖に付いている宝玉の一つが輝き始めた。
「冥界の扉を護る獣よ、私たちを家に帰らせてっ!」
ギルタブリルから出てくる煙が渦を巻いてルシルの持つ杖に集まってくる。
大きく固まり始めた煙の渦、その奥の方から光りが見えてきた。
「異界の……門、か」
徐々にその光りが大きくなっていき、辺りが眩しくなっていく。
「キシャァ!」
ギルタブリルが数匹俺たちに飛びかかってくるが、俺は横薙ぎに剣を払って巨大サソリを撃ち払う。
「ゼロ! 行けそう!」
「よし、飛び込むぞっ!」
俺はルシルの手を引いて、輝く光の中に飛び込んだ。
眩しさに、意識が遠のいていく。そんな不思議な感覚に身を委ねて、俺たちは光の渦に飲み込まれていった。