悶散見据える
ガシャ・スケルトンは普通の建物の二倍くらいは高さがある。俺は助走を付けて跳び上がると、下から突き上げるように腰から背骨を伝って剣で切り裂く。
聖剣グラディエイトが光を放ち、ガシャ・スケルトンの背骨伝いに剣筋が光の帯となって輝く。
「いっけぇーっ!」
肋骨を足場にしてさらに跳ぶ。今度はガシャ・スケルトンよりも高い位置を取り、そこから頭蓋骨に剣を突き立てる。
「おおおおおーっ!」
頭蓋骨に突き刺した聖剣の光が、空洞の目や口から漏れる。
骨のぶつかる音ときしむ音が鳴り、ガシャ・スケルトンの全身が細かく震え出す。
「塵に帰れ」
聖剣から魔力を放出させると、ガシャ・スケルトンの全身から光の塊が爆発を起こした。
一瞬辺りが真っ白になったかのような錯覚に陥り、徐々に世界が色を取り戻していく。
轟音と共に骨が崩れ去っていき、またバラバラになった骨の山に変わる。
「ゼロさん、すげぇや!」
「それより状況は。誰か判るか」
「動く骸骨、泥人形共に動けるものはありません。俺たちの勝利です!」
「そうか。被害はどうだ」
「はい……」
報告を受けた俺は、思ったよりも少なかったがそれでも死なせてしまった兵がいた事に無念の思いが募る。
「もっと鍛えてやれば、死なずに済んだかもしれない」
「でも、付いてきたのはあたしたちが選んだ結果、あたしたちの未来です。戦いで死ねたのなら彼らも後悔はしないでしょう。それはあたしも同じ……」
ヒマワリが俺を気遣ってくれるのか自分でも気持ちをさらに固めようとしているのか。ヒマワリも周りの兵士たちも、もしかしたらその倒れている兵が自分だったかもしれない、そう思っているだろう。
「そうか。お前たちの覚悟を軽く見ていたかもしれないな、すまない」
「そんな! ゼロさんが謝る事じゃないですって! 俺たちが命を預けたい、こうして町を開放してくれるゼロさんの力になりたい、そうして戦ってるんです。逆に奴らを褒めてやってくださいよ」
兵士たちは埃にまみれた汚れた顔で誇らしげな笑顔を俺に向ける。
「ああ、町を救ってくれた勇者たちに感謝する。ありがとう」
何人かは恥ずかしそうに、また何人かは涙を浮かべながら、戦いに勝った事を喜んでいた。
「お前たちの助けがあったから、ほら」
俺は町の門の方を指さす。そこには何人かの町の人が周辺を調査に出た兵に連れられて戻ってきていた。
「こうして町の人たちが戻ってこれたのだ」
町の人々が戻ってきていて門の外に人だかりができていた。
「この町にゆかりのある者たちは残ってくれて構わない。町の復興に手を貸してくれ」
何人かの兵士はうなずいて瓦礫の片付けや町の人々の案内をし始める。
「ゼロさんはもう行くんですか? 今日くらいここでゆっくりしていったら」
ヒマワリが休息を提案してきた。
「いや、俺は王都、宮殿を目指す。一日でも早く行けるようにな」
「そうですか……。それじゃああたしたちも」
「そうだな、ヒマワリの言う通りだ、行ける奴は付いていこう!」
ヒマワリの掛け声に周りの兵士たちも同調する。
「助かる。急ぐ旅だが共に来てくれ」
「はいゼロさん、言われるまでもないですよ。頼ってください!」
「ああ、ありがとう」
戦闘の後だというのに、すぐ出発しようとする俺にヒマワリや兵士たちは付いてきてくれる。
この町にとどまる兵士も少なからずいたが、それでもかなりの人数は俺と一緒に町を出た。
「王都まで、もうすぐだ」
【後書きコーナー】
サブタイトル、モン・サン=ミシェルとは関係ないです。王都が孤島な感じとかは似ているかもしれませんが。